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2004.11.25

新刊メモ

『アーサー王物語 1 』
マロリーの完訳版。訳は井村君江先生で挿画はビアズリーと豪華!
全5巻で値段はちょっと張りますが、ファンは必携だと思います。

『ホビット一族のひみつ』
「ホビット~」や「指輪」に出てくる名前を読み解く副読本って感じかな?
訳は井辻朱美さんです。

『ファンタジーの歴史──空想世界』
リン・カーターによるファンタジーガイド。
英米のファンタジーを総括する参考書として読んでおきたいところ。

『「魔法使いハウル」不思議な扉の開き方』
とうとう出ましたよ、「ハウル」の副読本が。映画効果ですね~。

『ぐるりのこと』
梨木香歩さんの2冊目のエッセイ。
12月末発売予定。bk1で予約受付中です。

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2004.11.23

空ノ色(ZABADAK)

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「空ノ色」
ZABADAK (GARGOYLE RECORDS HARV-0008)

ザバダックのニューアルバム。
この夏に舞台化された『空色勾玉』(→感想)の劇中で使用された楽曲が一枚にまとめられてリリース。
残念ながら鑑賞できなかった私にとって、発売が待ち遠しいアルバムでした。
演劇集団キャラメルボックスとのコラボレーションを引き合いに出すまでもなく、ザバダックの音楽は演劇(もしくは映像)作品との相性が抜群なのですが、今回の「空ノ色」のイメージ喚起力も素晴らしいですね。
音楽の静と動の絶妙なバランスが物語に深い奥行きと躍動感を与えていて、アルバムを聴いているだけで舞台の臨場感がそのまま伝わってくるような気がします。やっぱり観に行けば良かったな、とちょっと後悔してみたり。

一枚の作品としてのバランスが非常に優れているので収録されている曲は全部良いと思いますが、曲単体で好きなのは「月光」、「雨の行方」、「風の船」、「きざんできざんで」(残酷で物騒な童唄でびっくりしましたよ。でも好き)あたり。「An Overture」や大曲「ロック・オペラ 封印されし神々へ」の迫力にも興奮するし…って書いていくときりがありません。
日本古代のおおらかさ、残酷さ、雄大さ、美しさ、良い意味での泥臭さを音楽で見事に表現している良質の作品です。もともとのザバダックファンは勿論、勾玉ファンも虜にするだけの魅力があるかと思いますので、興味を持たれた方は是非是非お手に取ってみてくださいませ。

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空色勾玉(荻原規子)

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『空色勾玉』
荻原規子 著、徳間書店 刊

日本古代を舞台にしたファンタジー作品としてあまりにも有名な作品です。児童文学の名作としての評価もすっかり定着しています。よくよく考えれば福武版の初版刊行からもう15年以上も経っているんですね。徳間版も順調に版を重ねているようで、やはり良いものは読み継がれていくのだなぁとしみじみ嬉しく思いました。
私がこの作品を手に取ったのは福武版の帯に書かれていたコピーがきっかけでした。発行からずいぶん経っていますし、御存知の方も少なかろう(お若い方は特に)かと思いますのでこちらに引用させて戴きますと、

ひとりは「闇」の血筋に生まれ、輝く不死の「光」にこがれた。
ひとりは「光」の宮の奥、縛められて「闇」を夢見た。

この本に出会う前も、この本に出会った後も結構な数の本を読んできたつもりですが、帯のコピーに感心したのはこれだけです。物語の内容を凝縮した形で伝えた印象的な名文だと思います。
勿論、物語も素晴らしく、日本の児童文学というジャンルでこれだけ濃い内容の作品が作り出せるのか!と、海外作品贔屓だった私の認識を一気に覆してくれました。あとがきを読んで、これが処女作との事でまたびっくり。ひょっとして物凄い作家と出会えたのではないかとの予感は『白鳥異伝』で確信に変わりました。
実の所、著者の作品で一番好きなのは『白鳥異伝』なのですけれど、一番印象に残っているのはこの『空色勾玉』です。イメージの美しさ、物語の完成度の高さに浸った時の陶酔感は今でも忘れられません。他の作品を一通り読んでみてから改めて読み返してみると、原点はやはりここなのだと感じます。物語に描かれる人々の懸命さ、生きることへの真摯な姿勢、読後感の爽やかさ。後の物語に受け継がれていくメッセージはすべてここから始まっているのですね。
荻原作品の源流となるこの作品は、古代史ファンとファンタジーファンの両方を深い喜びで満たしてくれます。日本人で良かったと思わせてくれる稀有な物語です。

(2003/07)

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2004.11.22

裏庭(梨木香歩)


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『裏庭』
梨木香歩 著、理論社 刊 (→新潮文庫 版

庭には特別な力が潜んでいるような気がします。生き物を育んだり安らぎをもたらす事は勿論ですが、外にも中にも属する曖昧さを残した空間であるが故に、通路であり扉でありひとつの世界としても成り立ち得る場所。
そんな様々な要素を内在している、特別な場所としての働きを持つのがファンタジー作品での“庭”なのだと思います。この作品の主な舞台として描かれるのもそう云った特別な“庭”です。
丘の麓に建つ現在は使われていない西洋館、バーンズ屋敷の大きな秘密を予感させる書き出しに導かれて始まった物語は、主人公照美の旅を追いつつ、屋敷に関わる人々の過去をも次第に明かしていきます。ひとつひとつのエピソードが密接に重なり合い、響き合い、やがてひとつの大きな流れとなった時、物語は素晴らしい結末を迎えるのです。
全篇を通して印象的な場面や台詞には事欠かない作品なのですが、個人的に一番印象に残った言葉はこちらでした。
(理論社版 P246より引用)

「真実が、確実な一つのものでないということは、真実の価値を少しも損ないはしない。もし、真実がひとつしかないとしたら、この世界が、こんなに変容することもないだろう。変容するこの世界の中で、わしらはただわしらの仕事をもくもくと続けるだけじゃ。(中略)変容するこの世界に文句をつけるより、その世界で生きる事をわしらは選ぶよ」

変わり続ける世界の中で生き抜いていく力を与えてくれる、確かな手ごたえを持つ言葉。
梨木さんの作品には心に残る名台詞が数多くあるのですが、これも常に胸にしまっておきたい大切な言葉です。
自分を取り巻く世界が常に変わり続けるものである以上、よりどころになるただひとつの真実と云うものは存在しないのでしょう。外に求めて見つからないものならば、恐らくそれは自分で育てていかなくてはならないものなのです。他の誰でもない、自分自身の心の中で。そこで丹精込めて育てられたものだけが、ゆるぎのないしるべに成り得るのだと思います。
読み返す度に自分の“庭”に栄養を与えてくれるこの作品は、私にとってかかがえのないものです。おいしい水を飲むように味わって戴きたい名作。

(2000→2002/06→2003/07)

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魔法使いハウルと火の悪魔(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

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『魔法使いハウルと火の悪魔』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著、西村醇子 訳、徳間書店 刊

19歳の少女ソフィーは荒地の魔女に呪いをかけられ、90歳の老婆の姿に変えられてしまう。家族を心配させまいと家出した彼女が転がり込んだのは悪名高い魔法使いハウルの空飛ぶ城。押し掛け家政婦として城に住み込んだソフィーは、火の悪魔カルシファーやハウルの弟子マイケルと賑やかな暮らしを始めるのだが、ハウルもまた荒地の魔女に狙われている事を知る……。

全篇にユーモアが漂う、昔話のセオリーを逆手にとった物語。作中で起こっている出来事はかなり大変なのに、登場人物がどこかしら呑気と云うか鷹揚なので、展開にはらはらしていてもどこかのんびりした雰囲気がある所が凄いと思います。
昔話の定番の設定を使いながら、ここまで新鮮味がある面白い物語を語ってくれる手腕は流石。ジョーンズ作品では、最後まで見かけ通りのものが登場しない意外性も魅力のひとつです。最後に謎が解ける時の鮮やかさは何度読んでも気持ちの良いもので、良質のミステリにもつながる手法だと思います。初読の際には思わず「やられた!」とひとりごちてしまった程。
キャラクターのそれぞれが生き生きしているのですが、何と云ってもハウルが魅力的。つかみ所がなくて胡散臭いのに気が付くと彼の姿を追いかけてしまいます。ファッションセンスが抜群(奇抜?)な所もステキ。想像を絶するような素晴らしいお衣装はどんなものやら凡人には見当もつきませんよ(笑)。
呪われてもめげないソフィーも通常のヒロインとは一線を画してまして、逞しく頑張るけれど可愛らしさも失わない所が良いなぁ。大好き! 
そしてこの作品の魅力をあますところなく伝えているのが西村醇子さんの翻訳。文章の読みやすさは勿論、訳語の的確さとセンスの良さには脱帽ものでした。中でも気に入っているのがカルシファーの一人称「おいら」。もうこれ以外考えられないくらいイメージぴったりです。名訳!
姉妹篇の『アブダラと空飛ぶ絨毯』もこれまた面白いので是非どうぞ。『ハウル』が太陽なら、『アブダラ』は月のイメージかな。両方合わせてお楽しみ下さいませ。

( 1998→2002/6→2003/07)

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九年目の魔法(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)

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『九年目の魔法』
ダイアナ・ウィン・ジョンズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊
(→創元ブックランド版 

自分の記憶の奇妙な二重性に気付いた少女ポーリィは、不思議な青年トーマス・リンと出会った事が全ての始まりだったと思い出す。失われた九年間を取り戻した時に彼女を待ち受けていたものは……。

こちらは現代の英国を舞台にして、ひとりの少女が自分の記憶と大切なものを取り戻す為に奮闘する物語。凝ったディティールと入り組んだ謎に導かれつつ、気がつけば物語にどっぷりと浸かってしまいました。ジョーンズ作品の中で最も好きな作品であると同時に興味の尽きない作品です。
英国のファンタジー作品には民間伝承を取り入れて素晴らしい作品に仕上げたものが数多くありますが、この作品の重要な柱になっているのはスコットランドの妖精伝説「タム・リン」と「詩人トマス」。これらの取り入れ方が実に見事だった為、伝説自体にも非常に興味を惹かれました。少ない日本語文献を漁ってみた限りではどちらも面白かったので、機会があれば色々と調べて読み解きの参考にしたいと思います。
作品中に挙げられた本の数々も読書好きには嬉しい限り。自分の好きな作品が言及されているとそれだけで楽しいし、未読のものは読んでみたくなるし。本好きの心を鷲掴みにする著者の心憎い演出には唸らされてしまいますよ。
本をこの作品の縦糸とするなら、横糸はやはり音楽でしょう。
トーマス・リン氏の職業がチェリストなのでイメージするのはやはりクラシック音楽。BGMにしながら読むと楽しみが倍増するかも。リンさんの奏でるチェロの音色やデュマ四重奏団の演奏はどんなものかしらと想像するのも楽しいのです。章ごとに使われている音楽用語も趣を深めていますね。
本と音楽が全篇に織り込まれたタペストリの様な物語です。未読の方は是非その魅力に触れてみて下さいませ。浅羽莢子さんの歯切れの良い翻訳も素敵です。好きな著者の作品を好きな訳者の訳で読めるのはこの上ない喜びでありますなぁ。

(1998→2002/06→2003/07)

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2004.11.21

帝国の娘(須賀しのぶ)

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『帝国の娘』前編後編
須賀しのぶ 著、集英社コバルト文庫 刊

猟師の娘として育った十四歳の少女カリエ。
エディアルドと名乗る男に攫われた彼女は、重病の皇子アルゼウスの身代わりとして次期皇帝の地位を三人の皇子と争う事になる…。

「流血女神伝」開幕篇。
十四歳の少女が主人公なのに、彼女を襲う運命がこんなに苛酷でいいのか?と思いつつもページをめくらせる手が止まりませんでした。面白かった!
腐敗が進んだルトヴィア帝国内部で権力争いに巻き込まれた少女を主人公に、彼女を取り巻く人々や状況を骨太に描いていて、舞台となる国にしても登場人物にしても興味がどんどん広がっていきます。展開が早いのに登場人物の心理描写が丁寧で、物語が立体的に紡ぎだされている所も著者の筆力の凄さだな、と感嘆。
カリエだけでなく、登場人物の殆どがままならない運命に歯噛みしているような状態なのですが、それぞれが誇り高く自分の進むべき道を顔を上げて進んでいこうとする様子がとても好ましかったです。
久し振りに夢中になれるシリーズと出会えました。まだまだ物語は始まったばかりで先は長いのですけれど、続きを読むのが楽しみでたまりません。

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2004.11.17

死体をどうぞ(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『死体をどうぞ』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

ピーター卿シリーズ第7作。
徒歩旅行を楽しんでいた探偵小説家ハリエット・ヴェインは、波打ち際に立つ大きな岩の上で男の死体を発見する。喉を掻き切られた死体の傍には剃刀が一振り。
人気のない砂浜に残っているのは当人のものとおぼしき足跡だけだった。
自殺としか思えない状況だが、他殺だとすれば一体どのような方法がとられたのか?
やがて死体は満ち潮に運ばれて海へ消え、困難な捜査が始まる事になり…。

今回の舞台はイングランド南西部。
愛する女性が事件に巻き込まれたと知って、はるばるロンドンから駆けつけたピーター卿なのですが、(以下P66より引用)

「いったいどうして」ハリエットは質した。「あなたがここに?」
「車で」ピーター卿は簡潔に答えた。「死体は見つかったかね?」
「死体のこと、誰に聞いたの?」
「遠くから嗅ぎつけたのさ。死体のあるところ、鷲は集うものでね。ベーコンエッグをご一緒してもいいかね?」
「どうぞどうぞ。どこから来たの?」
「ロンドンからだ──つれあいの呼び声を聞いた鳥のように」
「私は別に──」ハリエットは言いかけた。
「あなたのことじゃない。死体のことだよ。とはいえ、つれあいの話が出たついでに訊くが、結婚してくれないか?」
「とんでもない」

と、つれないお答えのハリエット(笑)。
こんな調子でじゃれあいの様なやりとりが続くのかと思えばシリアスな諍い(13章参照)が展開されたりして、ロマンスの進行はかなりもどかしいのですが、事件の真相も混迷気味。死体が行方不明になったり、ピーター卿の推理が何度も行き詰ってしまったり。
そうかと思うと幕切れは以外にあっさりしていて、やはりセイヤーズ女史は喰えない作家だとの印象を新たに致しましたよ(笑)。
人物描写にシニカルな所がある為か、結末はちょっと苦めかも…。

(2003/03/19)

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2004.11.16

五匹の赤い鰊(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『五匹の赤い鰊』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

釣人と画家で賑わうスコットランドの田舎町で嫌われ者の画家の死体が発見された。
画業に没頭するあまり崖から転落したと思われたが、この町に滞在中のピーター卿はこれが事故を装った殺人事件であると見抜く。殺人現場に残されていた描きかけの絵は犯人の筆によるもの。よって犯人が画家であることは間違いない。
容疑者は6人、果たして真犯人は?

ピーター卿シリーズ6作目。
今回はハリエット嬢とのロマンス進行はちょっとお休みですが、謎解きの楽しみを充分に堪能できるつくりの作品になってますんで、ミステリ好きにはたまらんでしょうね~。エラリイ・クイーンがお好きな方はお気に召すかも。「読者への挑戦」的な記述もあるし。

タイトルが「五匹の赤い鰊」ってんで、釣りの話かしらと思っていたのですが(単純過ぎ)、red herring とは英語の成句表現で「人の注意を他にそらすもの・人を惑わすような情報」の意味があるんですね。狐狩りの猟犬に他の匂いと嗅ぎわける訓練をさせる際、燻製鰊を使った事からこの表現が生まれたそうな(ええ、辞書をひきましたとも)。
作中では「赤い鰊」と書いて「にせのてがかり」ってなルビが振ってあります。意味深で良いなぁ!
ピーター卿シリーズのタイトルはいつも洒落てるなと思ってましたが、今回も素敵です。
あと、特筆すべきは6人の容疑者に対する6人の探偵役の推理合戦でしょうか。これは今迄にない趣向だったので純粋に面白かった~。
勿論、「名探偵、皆を集めてさてと云い」の役割はピーター卿が持って行きますけどね(笑)。

(2003/03/04)

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毒を食らわば(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『毒を食らわば』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

ピーター卿シリーズ第5作。
探偵小説家ハリエット・ヴェインは、同棲していた恋人のフィリップ・ボーイズから結婚を申し出られた事に激昂し関係を解消するが、彼女との最後の会見直後にボーイズは死亡。解剖の結果、死因は砒素中毒と判明。
折悪しく偽名で砒素を購入していたハリエットに殺害の嫌疑がかけられる。
彼女の裁判を傍聴していたピーター卿は、ハリエットの嫌疑を晴らすべく果敢な捜査に乗り出すのだが…。

シリーズの転換点たる第5作では、ピーター卿の“運命の女性”が登場。
4作目までの余裕っぷりは何処へやら、恋に落ちたピーター卿の奮闘振りは涙ぐましいものがあります。
読者によって評価が別れるのは無理ないなぁと思いつつも、女性の評価は高そうですよねぇ。レディ・メアリの台詞じゃありませんが、「やさしいおばかさん」ですよ、本当に!
クリンプスン嬢の体を張った大活躍(笑)も勿論素晴らしかったのですが、バンターファンの私としましては第6章が見所。今回の名台詞(?)はこちら(P106より引用)。

「…こう申しては何でございますが、成熟した年齢と女王のごとき体形の女性のほうがしばしば、浮ついていて思慮の浅い美女よりも、繊細な心遣いにほだされ易いものでございます」

おおう、凄い自信だ。私も繊細な心遣いとやらにほだされたいわ~。
しかし、バンターってばストライクゾーン広すぎじゃございませんこと?
このほかにはP108~109のやりとりが大好きで何度も読み返しておりましたよ。個人的に文庫本1000ページにわたって御前とバンターのボケツッコミだけでもOKなんですが、物語としてそれはどうなのさ(笑)。
ずっと気になっていたパーカー警部(気が長いよねこの人も)のロマンスの行方が定まったり、まとまるべき所がさくさくとまとまっていくこの作品、シリーズ物の醍醐味を味わわせてくれるポジションにありますね。
さてさて、これから物語はどんな方向に進んでいくのやら楽しみです。

(2003/01/14)

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ベローナ・クラブの不愉快な事件(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『ベローナ・クラブの不愉快な事件』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

ピーター卿シリーズ第4作。
休戦記念日の晩、ベローナ・クラブを訪れていたピーター卿は、古参会員のフェンティマン将軍が椅子の上で死んでいる場に遭遇する。将軍は資産家の妹と共にある遺言を残していた。
妹のレディ・ドーマーが先に亡くなった場合、彼女の遺産の殆どが将軍に渡り、逆の場合は、遺産はレディ・ドーマーの被後見人、アン・ドーランドに渡る手筈だったのだが、同日の午前10時37分にレディ・ドーマーも死亡。
どちらの死亡が先かによって、莫大な遺産の行方は決まる。
弁護士から手助けを求められたピーター卿は将軍の死亡時刻を調査する事になり…。

今回の作品で何が良かったかと問われたならば、ピーター卿のバンターに対するお惚気が聞けることですよ。
恵まれているとは云い難い生活を送っている友人宅に聞き込みにいったピーター卿、友人の当てこすりめいた台詞に答えて曰く、(以下 P85~86より引用)

「僕は運が良くて」とウィムジイは、金がありすぎると非難された人間が用いざるをえなくなる、あの言い訳がましい口調になった。
「稀に見るほど忠実で頭のいい従僕がいて、母親の様に面倒をみてくれているんです」
(中略)
「バンターなら、何があってもこちらを見捨てない気がする。大戦の途中から僕の直属の下士官になって、かなり苦しいところを一緒に切り抜けたもので、何もかも終ったあと、探し出して雇ったんだ。もちろん、それ以前も奉公はしていたんだが、前の主人が戦死して家族の人もばらばらになっていたから、喜んでついてきてくれた。今ではバンターがいなかったらどうすればいいかわからない(略)

主人にここまで云わせる従僕って!(笑)
そんな忠実で有能なバンター氏は写真の腕前も素晴らしく、犯罪捜査においても彼の技術が重要な役割を果たしているのですが、現像で暗室にこもりきりになると御前のお世話まで手が廻らないんですね。そこで御前は暗室につけた内線電話で、やれ正装用のボタンはどこだとか、やれ煙草入れはどこに置いたかだとかをバンターに聞くのですけれど、電話だけでは済まない事ってのもたまにはある訳です。
例えばネクタイを結んでいてこんがらがってしまった時。
そんな時ピーター卿はどうするか。現像の区切りがつくまで待っているんですよ…こんがらがったネクタイをぶら下げたまま(笑)。
「…自分の家にいながら、まるで奴隷ですよ──本当のところ」なんて云ってますが、お惚気そのものですってば。その証拠に話を聞いていた友人の奥方のコメントが、「大事にされている幸せな奴隷に見えますわ。」ですもの。
バンターの事は置いておいて、内容についてもう少し。
章タイトルがカードゲームになぞらえられていて洒落ているのですよ。片付いたと思った謎がまた顔を覗かせたり、疑惑が晴れたかと思った人物がまた怪しく感じられたりと勝負の先が読めないところもまた楽し(これはいつもか…)。
それから、登場する女性達が良いですね。シーラ夫人やマージョリィ嬢など逞しい女性達の魅力が描かれています。
セイヤーズの描く女性達って、とても70年以上前に書かれたとは思えないなぁ。

(2002/12/25)

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不自然な死(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『不自然な死』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

ピーター卿シリーズ第3作。
殺人疑惑のある死に立ち会った場合、検視審問を要求すべきかどうかをソーホーの料理屋で食事をしながら議論していたピーター卿とパーカー警部。その話を聞いていた隣席の男が突然口を挟んでくる。
医者だと云うその男は、以前に癌に冒された裕福な老婦人の診療を手がけていた。病状は進行していたものの、余命は約半年あると断定した彼の診察を裏切るかのように患者は思いもかけぬ早さで突然死亡する。死因に不審を覚えた彼は解剖を主張したが、分析の結果に不審な点は見つからなかった。
この話に興味を抱いたピーター卿は、パーカー警部と共にこの事件の捜査を開始するのだが…。

今回の作品は、バンターファンの私にはちょっとばかり物足りなかったのですけれども、その分ピーター卿とパーカー警部のコンビがいかしてました~。今回一番笑った箇所(P247より引用)。

パーカーは、この世にわずかしかいない、几帳面で骨身を惜しまない人間のひとりだった。ウィムジイと事件に取り組んでいる時は時間がかかって面倒、かつ退屈で魂が破壊されるような作業は全て、パーカーがするという暗黙の了解がある。時々、ウィムジイがそれをあまりにも当然のことと考えているのに苛立ちをおぼえることがあった。今もそう。何しろ今日は暑い。歩道も埃っぽい。紙屑が通りを吹き飛ばされていく。バスの外座席は焼けるよう、内座席は息が詰まる。(中略)だいたいウィムジイが悪い! なぜドーソン嬢を墓で安らかに眠らせておいてやれなかったのだ? 誰に害を与えている訳でもなかった──だのにウィムジイがほじくり返すと言い張って、パーカーが公式に関心を持たざるを得ないところまで調査を進めてしまった。(以下略)

この場面の絵面を想像すると楽しくって!憤懣やる方ないパーカー警部の姿がありありと脳裏に浮かびますよ。
たたみかけるようなトホホ感がたまりません(笑)。
事件としては結構後味が悪いんですが、謎の提示の仕方は興味深かったかな。

(2002/10/28)

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雲なす証言(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『雲なす証言』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

ピーター卿シリーズ第2作。
前回の事件の疲れを癒すべく、コルシカ島で気分転換をはかった後、パリのホテルでくつろいでいたピーター卿。
優雅な滞在を楽しもうとしていた矢先に彼の元へ届けられたのは兄であるデンヴァー公爵の逮捕の知らせ。容疑は殺人、加えて被害者は妹メアリの婚約者キャスカート大尉というとんでもない事態に、急ぎ兄の領地のリドルズデールに向かったピーター卿を待っていたのはかみ合わない証言と混沌とした事件の状況。
果たしてデンヴァー公爵の無実は証明されるのか?ピーター卿の推理は如何に!

「ミステリの女王」と呼ばれるセイヤーズ女史の作品をキャラクター読みしている私ってば物凄く失礼なのかもしれんなぁ…。だからと云ってやめる気は全くないんですけども。
バンター、貴方もしかしてたらしですか(笑)?
エレンを誑か…たらしこ…いや、篭絡した手腕を考えるにそうとしか思えないんですもの~。少なくとも初対面の御婦人方に不審を抱かせない程度には、見目が良いのではあるまいか(贔屓目?)。実は1作目を読んだ時点ではいかつい顔を想像していたので、ちょっと意外だったのですよ。
そしてピーター卿。相変わらず可愛いったら!!バンターさえいなかったら夢中になる所でしたわ。今回一番好きな台詞はこちら。(P65より引用)

「貴族院議員の場合でも、縛り首は縛り首なんだろう? タワー・ヒルで首をはねられるとか、そんなことはないんだろう?」

…逮捕されてるのが自分の兄なのに、よくもこんな台詞が出てくるもんだ(笑)。
事件解決の為の大冒険(<ピーターの穴>での冒険が特に美味しかったぞ!)の数々も素敵だったのですが、べろんべろんに酔っぱらってろれつが廻らなくなる(でも良く喋る)のも同じ位素敵でしたわ~。
今回はパーカー警部もいい感じでした。貴方本当にいい人だよ!バンターさえ(以下略)。彼の恋の行方も楽しみだなぁ。まぁ、既にお墨付きは貰ってるけどね(笑)。頑張れチャーリー!

(2002/10/23)

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誰の死体?(ドロシー・L・セイヤーズ)

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『誰の死体?』
ドロシー・L・セイヤーズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊

貴族探偵ピーター・ウィムジィ卿のシリーズ第一弾。短編集(『ピーター卿の事件簿』)から読むべきか迷ったんですが、とりあえず1巻目から。
建築家シップス氏の浴室で見つかった身元不明の男の死体。彼が身につけていたものは金縁の鼻眼鏡と金鎖のみだった。これは一体誰の死体なのか、殺人の動機と方法は?友人の警部パーカー氏、従僕のバンターと共に死体の謎に挑むピーター卿!

大金持ちの貴族の次男坊で、多趣味で美食家で頭も良くてしかも素人探偵なんて、少女漫画に出てくるお貴族様そのものじゃんよ~(笑)などと大変失礼な事を思っておりましたよ読むまでは。
殿方にこういう事を云うと厭がられるのは承知の上ですが、なんか可愛いんですよねぇ、ピーター卿。被害者の事を友人に話す際に、「僕の死体」呼ばわりかい(笑)。死体に関する戯れ歌を即興で作ったりするし…。この変な性格が大変チャーミングでした。
しかし、このような素敵なピーター卿を差し置いて、私のハートを鷲掴みにして下すった方がいらっしゃいましたよ。
それは誰かと問われたならば、お答えしましょう!(←誰も聞いてない)
ピーター卿の従僕、マーヴィン・バンター氏その人です~。主人の身の回りの世話から(彼の淹れるコーヒーは絶品だそうだ)、探偵助手、古書の落札までこなすあくまで有能な彼の魅力に骨抜きにされかかっていたのですが、決定的だったのは8章のラスト。いやぁ、本気でときめきました~。バンターになら云われてみたいわこんな台詞(←落ち着いて)。
シリーズ唯一の完全レギュラーだそうなので、全作に出演って事よね。嬉しいな!
上流階級の香りとユニークな登場人物達、ユーモアを堪能したいシリーズです。読み進めるのが楽しみ。

(2002/10/15)

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モンテ・クリスト伯(アレクサンドル・デュマ)

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『モンテ・クリスト伯』全7巻
アレクサンドル・デュマ 著、山内義雄 訳、岩波文庫 刊

1815年、マルセイユ。
船乗りのエドモン・ダンテスは婚約披露宴の最中に無実の罪で逮捕され、政治犯が収容されるイフ城砦へと投獄される。
14年間の獄中生活を経て脱獄したダンテスはモンテ・クリスト伯と名乗り、彼を冤罪に陥れた人々に復讐を果たすべくパリを目指す……。

はっきり云ってフランス文学とは今まで縁遠かったです。あえて手に取ろうとは思っていなかったのですが、ふとしたきっかけで読んでみたら面白いのなんのって。小学生の頃に抄訳版を読んだきりで話を全然覚えていなかったのがかえって幸いしたのか、新たな気持ちで読んでみたらエンタテインメントの王道だったんだと感心してしまいました。
端的にまとめると、
幸福の絶頂→不幸のどん底→絶望→出会い→脱出→探索→発見→再会→善行→復讐
ってな感じでしょうか。
登場人物達の運命はどうなるの?とハラハラしながら読んでいたのですが、フランス名前を覚えるのが苦手な私にとって登場人物紹介ページが無かったのはつらかったです…。特にはじめの頃は誰が誰やら把握できずに同じところを何度も読み返してみたり。あまりに覚えが悪い自分に業を煮やしてメモを作りましたよ(自給自足)。名前を覚えられないのって本当に情けないですねぇ(笑)。
1・2巻あたりは物語の進行が遅いので少々退屈しますが、第二世代の登場人物が出てくるあたりからどんどん面白くなっていきます。5~7巻は非常に緊迫した展開になるのでページをめくる手も加速気味。
物語の大筋と登場人物をつかむだけなら抄訳版でも充分なのですが、細部を楽しむなら是非この岩波文庫版を!
ツッコミどころ(御都合主義めいた所とか)は結構ありますが、話の流れに載ってしまえばさほど気になりません。劇的な展開と多彩な人物達の心情や思惑、そして恋の行方を堪能してみて下さい。長篇小説の醍醐味が充分に味わえる事受け合いです。
マクシミリアンの長台詞も見所のひとつかと。寡黙な青年かと思ってたのに実によく喋るんですよ、この人ってば。
流石フランス男だなぁ!(笑)

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2004.11.15

『狐笛のかなた』が第42回野間児童文芸賞を受賞

上橋菜穂子さんの『狐笛のかなた』が平成16年度 第42回野間児童文芸賞を受賞しました。
講談社のサイトに詳細があります。興味のある方はどうぞ。

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2004.11.09

ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 11月の新刊

映画「ハウルの動く城」連動企画 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ出版フェア絶賛開催中!
ってな模様ですねぇ、出版界では。
とりあえず今月出版されたものとしましては、

『わたしが幽霊だった時』(創元ブックランド版)
『九年目の魔法』上・下(創元ブックランド版)
こちらの新版は両作品とも後藤啓介さんの挿絵が入っています。
『わたしが幽霊だった時』の解説は井辻朱美さん、『九年目の魔法』の解説は文庫と同じく三村美衣さんですが、新たに書き直された模様です。
『バウンダーズ この世で最も邪悪なゲーム』(PHP研究所 刊)
『魔空の森 ヘックスウッド』(小学館 刊)
『呪文の織り手』(創元推理文庫 刊)
デイルマーク王国史3巻。

出版ラッシュはファンとして嬉しい限りですが、来年以降はどうなってしまうのかしらと少し不安です。
来春刊行予定のクレストマンシーの原書の新作『Conrad's Fate』はちゃんと翻訳されるといいのですが。
※上記リンクはUS版。UK版の方が発売が早いようです。2005年3月7日予定。
因みに表紙はこんな感じだそうだそうです。クレストマンシー城?

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2004.11.05

繰り返し読んだシリーズものから1冊



bk1の100冊フェアの中でのお題「繰り返し読んだシリーズものから1冊」を考えてみました。1冊と云われると悩みますね~。
bk1で現在取り扱っているものでのエントリーと云う事なので、ここはやはり自分にとって最も思い入れの強いファンタジーの「ナルニア国ものがたり」から『ライオンと魔女』(C・S・ルイス 著)を挙げたいと思います。シリーズ中で一番好きなのは『銀のいす』なのですが、再読の回数が一番多いのはこちらなので。


◆繰り返し読んだシリーズものから1冊
『ライオンと魔女』
C・S・ルイス 著、瀬田貞二 訳、岩波少年文庫 刊

◆ブリーダーID
p-chakai15045

◆紹介する理由
私にとって何度読んでも輝きが褪せないファンタジー作品と云えばこれ。
衣装たんすの扉を抜けて、はじめてナルニアを訪れた時のわくわくした気持ちが再読するたび鮮やかに甦ります。
別世界の魅力を味わいたい方にお薦めです。


100文字程度の説明って難しいですね。全然紹介になっていない気がしますよ…。
短い文章で本の魅力を伝えるのは至難の業だな。

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2004.11.03

象られた力(飛浩隆)

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『象られた力』
飛浩隆 著、ハヤカワJA文庫 刊

4つの収録作品はどれもそれぞれ面白かったのですが、好きなのは「デュオ」と「呪界のほとり」、映像的な美しさが際立っていると感じたのは「夜と泥の」、ただただ感嘆してしまったのは表題作の「象られた力」です。想像力が追い付かないほどの圧倒的なイメージでした。

「デュオ」 
双子の天才ピアニスト、グラフェナウアー兄弟をめぐる物語。
音楽をテーマにしているだけに読んでいて感覚にダイレクトに響いてくる作品でした。
語りのからくりにもやられましたよ…。収録作品で一番好き。
「呪界のほとり」 
読みながら大笑いしました。万丈とファフナー、パワーズのトリオがもう最高!
P136のたたみかけるような描写が小気味良かったです。
思わず万丈に「元気だせよ!」と気休めの声をかけたくなるくらいだ(笑)。ユーモアのセンスも絶妙なのですね。
同じ登場人物の活躍を是非長篇で読んでみたいと思います。
「夜と泥の」 
自分の目にもジェニファーの姿の残像が残っている様な読後感。ラストが印象に残りました。
「象られた力」
きらびやかなイメージに目を奪われるのですが、物語中で一番気に入っているのがドメニコ・プラーガとその書斎だったあたり、私は何かを履き違えているような気がしますよ…。
図形が持つ象徴とその力をあますところなく描いた作品。崩壊した都市の光景にはぞくぞくしてしまいました。

理知的な言葉で語られるイメージの奔流に圧倒されると同時にその美しさに酔わされる悦びを味わえた1冊でした。満足~。

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2004.11.02

英国 魔女と妖精をめぐる旅(新美 康明・井村 君江)

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『英国 魔女と妖精をめぐる旅』
新美 康明 著、井村 君江 監修、光文社 知恵の森文庫 刊

普通のガイドブックにはあまり載っていないような土地が多く紹介されている英国案内です。
コーンウォールやマン島、イングランドの南西部などが言及されているのは英国の田舎(辺鄙な場所と云った方が近いかな)を愛する向きにはこたえられないのではないでしょうか。英国好きなら勿論、英国産のファンタジーがお好きな方なら存分に楽しめるのではないかと思います。
1章は本文中で扱う魔女・妖精・幽霊などに関する解説、2章は旅程指南、3章が旅行記と云った感じで、まとまりが良くて楽しい読み物になっています。文章が簡潔で読み易く、図版が充実しているのも嬉しい! 
巻末の年表とインフォメーションもなかなか便利で文庫にしておくのは勿体無いかも。
私はこの本を読んでマン島に行ってみたくなりました。妖精の城と云われるラッシェン城、先史時代の墓跡のミュル・サークル、黒い妖犬が現れる伝説のあるピール城、怪物バゲインが屋根を壊した聖トリニアン教会、マン島西部を支配していたと云うオーリ王の墓などなど、大きな島でもないのにこんなに面白そうな場所がたくさんあるなんて!とわくわくしてしまいましたよ~。

ガイドブックとして楽しむも良し、綺麗な写真と旅の記録を楽しむも良し。旅心を大いにかきたてられた1冊でした。
ああ、英国行きたいなぁ!

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夢見る人の物語(ロード・ダンセイニ)

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『夢見る人の物語』
ロード・ダンセイニ 著、中野善夫 中村融 安野玲 吉村満美子 訳、河出文庫 刊

ダンセイニ短篇集第2弾。
今回は幻想譚が多いのでハイ・ファンタジーがお好きな方向きかと思います。
「ウェレランの剣」、「バブルクンドの崩壊」、「妖精族のむすめ」、「海を臨むポルターニーズ」、「カルカソンヌ」などなど異世界の美しさを充分に語ってくれる物語に耽溺しました。訳文も絶品です。

今回の収録作品中で、個人的に一番思い入れのある作品は「バブルクンドの崩壊」で、偏愛しているのが「海を臨むポルターニーズ」なのですけれど、一番好きな作品をひとつ挙げろと云われたら「ウェレランの剣」を選びます。
安野玲さんの訳文が素晴らしくて冒頭部分からやられてしまいました。
ちくま文庫の『妖精族のむすめ』で読んだ際も好きな作品だったのですが、今回の安野訳ほどは夢中にならなかったのですよ。
好きな部分をちょっと引用させて戴きますと、

「おお、メリムナ、われらが都よ。メリムナ、城壁めぐらしたるわれらが都よ。
 メリムナよ、尖塔が数多そびえる汝のなんと麗しいことか。汝のためにわれらは現世(うつしよ)を、数々の王国を、可憐な花々をあとにした。汝のためにわれらはしばし天より舞いおりた。
 神の御前を離れるのはまことに容易ならぬこと。そこは暖かな火のごとく、安らかな眠りのごとく、輝かしき聖歌のごとくして、静けさに、光に満ちた静けさに包まれておるがゆえ。
 われらがしばし天を後にしたのは汝のためだ、メリムナよ。
 数知れぬ女をわれらは愛した、メリムナよ。だが、愛した都はただひとつ。
 さあ見るがよい、夢見る都人を、われらが愛した民を。その夢のなんと美しいことか! 夢の中では死せる者も息を吹き返す。遠い昔に命を落とし、黙したままの者さえも。
(以下略) (安野玲 訳 P25~26より引用。)

ダンセイニの筆で描かれる都市は滅びの予感を孕んでいるが故にどれも美しいのですが、メリムナほど愛された都はなかっただろうと思います。遠い夢の彼方に旅立ってしまったいにしえの英雄達を現世に呼び戻してしまうほどに。
読むほどにこの都市の美しさに浸ってしまい、20ページ程の短篇であるにもかかわらず読後に深い満足を味わいました。
驚異の都バブルクンドや行きつくことの叶わぬカルカソンヌにも心惹かれてやみません。
壮麗な都市に心を旅立たせてみたい方はぜひぜひ読んでみて下さいませ。

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