九年目の魔法(ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)
『九年目の魔法』
ダイアナ・ウィン・ジョンズ 著、浅羽莢子 訳、創元推理文庫 刊
(→創元ブックランド版 上 下)
自分の記憶の奇妙な二重性に気付いた少女ポーリィは、不思議な青年トーマス・リンと出会った事が全ての始まりだったと思い出す。失われた九年間を取り戻した時に彼女を待ち受けていたものは……。
こちらは現代の英国を舞台にして、ひとりの少女が自分の記憶と大切なものを取り戻す為に奮闘する物語。凝ったディティールと入り組んだ謎に導かれつつ、気がつけば物語にどっぷりと浸かってしまいました。ジョーンズ作品の中で最も好きな作品であると同時に興味の尽きない作品です。
英国のファンタジー作品には民間伝承を取り入れて素晴らしい作品に仕上げたものが数多くありますが、この作品の重要な柱になっているのはスコットランドの妖精伝説「タム・リン」と「詩人トマス」。これらの取り入れ方が実に見事だった為、伝説自体にも非常に興味を惹かれました。少ない日本語文献を漁ってみた限りではどちらも面白かったので、機会があれば色々と調べて読み解きの参考にしたいと思います。
作品中に挙げられた本の数々も読書好きには嬉しい限り。自分の好きな作品が言及されているとそれだけで楽しいし、未読のものは読んでみたくなるし。本好きの心を鷲掴みにする著者の心憎い演出には唸らされてしまいますよ。
本をこの作品の縦糸とするなら、横糸はやはり音楽でしょう。
トーマス・リン氏の職業がチェリストなのでイメージするのはやはりクラシック音楽。BGMにしながら読むと楽しみが倍増するかも。リンさんの奏でるチェロの音色やデュマ四重奏団の演奏はどんなものかしらと想像するのも楽しいのです。章ごとに使われている音楽用語も趣を深めていますね。
本と音楽が全篇に織り込まれたタペストリの様な物語です。未読の方は是非その魅力に触れてみて下さいませ。浅羽莢子さんの歯切れの良い翻訳も素敵です。好きな著者の作品を好きな訳者の訳で読めるのはこの上ない喜びでありますなぁ。
(1998→2002/06→2003/07)



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