アルヴァとイルヴァ(エドワード・ケアリー)
『アルヴァとイルヴァ』
エドワード・ケアリー 著、古屋美登里 訳、文藝春秋 刊
イルヴァは骨ばった腕でわたしを抱きしめた。しっかり抱きしめた。その抱擁の強さにわたしはたじろいだ。ふたつの心臓がそれとわかって強く鼓動するのがわかった。とても速く、とても力強かった。わたしはたちまち屈してしまった。アルヴァ・イルヴァのエンジンがふたたび命を吹き返すのがわかったとたん、そう、わたしは降参したのだ。わたしは降参した。わたしは屈した。そして受け入れた。もう止めることができなかった。そしてイルヴァの体の内側からは自信が湧いてきて、ふたりが再会したことで小さな音が、かすかな希望が芽生えてきて、わずかに聞き取れる声でこう囁いた。「姉さん、ひとりぼっちの地球」と。
(上掲書 P181より引用)
エントラーラと云う小さな町に住む双子の姉妹、外を希求する姉アルヴァと内に安寧を求める妹イルヴァ。対照的なふたりはそれぞれのやり方で世界を自らの中に取り込もうとする。
そして未曾有の災厄がエントラーラを襲う時、双子が作った粘土細工は町に何をもたらすのか。
架空の町エントラーラの観光案内と双子が残した思い出の数々、アルヴァの自伝が交互に語られる構成が物語を立体的に感じさせます。アウグストゥス・ヒルクスが語るエントラーラとアルヴァが語るエントラーラ。ひとつの町をふたりの語り手が語る事によって町の細部が鮮やかに現れ出てきます。読み手である自分もいつの間にかエントラーラを歩いているような錯覚を覚えてみたり。
前作『望楼館追想』を読んだ時にも思いましたが、閉じられた空間を精密に描くのが巧みな作家ですね。箱庭めいた世界の中で営まれる人々の生活が淡々と描かれる所にとても心惹かれました。
ケアリーの書く登場人物は風変わりで心弱い人々が多いので、読んでいてどうにもやきもきしてしまうのですが、社会(世界)に祝福されない(受け入れられない)人々の穏やかな諦めのようなものは透明感があって好みです。自分を中心として世界を見据えて生きていくのではなく傍観しながら生きる世捨て人や彷徨い人の視点とでも云いましょうか、一種独特の距離感が良いなぁと思います。考え方としては相当後ろ向きなんですけども。
エントラーラを描いたこの物語は同時にアルヴァとイルヴァの生涯を描いた物語でもあります。分かち難く結ばれた双子が別離の時を経て、再び強いつながりを得る場面は切なくも美しく、一番印象に残りました。






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