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2005.02.28

アルヴァとイルヴァ(エドワード・ケアリー)

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『アルヴァとイルヴァ』
エドワード・ケアリー 著、古屋美登里 訳、文藝春秋 刊

イルヴァは骨ばった腕でわたしを抱きしめた。しっかり抱きしめた。その抱擁の強さにわたしはたじろいだ。ふたつの心臓がそれとわかって強く鼓動するのがわかった。とても速く、とても力強かった。わたしはたちまち屈してしまった。アルヴァ・イルヴァのエンジンがふたたび命を吹き返すのがわかったとたん、そう、わたしは降参したのだ。わたしは降参した。わたしは屈した。そして受け入れた。もう止めることができなかった。そしてイルヴァの体の内側からは自信が湧いてきて、ふたりが再会したことで小さな音が、かすかな希望が芽生えてきて、わずかに聞き取れる声でこう囁いた。「姉さん、ひとりぼっちの地球」と。
(上掲書 P181より引用)

エントラーラと云う小さな町に住む双子の姉妹、外を希求する姉アルヴァと内に安寧を求める妹イルヴァ。対照的なふたりはそれぞれのやり方で世界を自らの中に取り込もうとする。
そして未曾有の災厄がエントラーラを襲う時、双子が作った粘土細工は町に何をもたらすのか。

架空の町エントラーラの観光案内と双子が残した思い出の数々、アルヴァの自伝が交互に語られる構成が物語を立体的に感じさせます。アウグストゥス・ヒルクスが語るエントラーラとアルヴァが語るエントラーラ。ひとつの町をふたりの語り手が語る事によって町の細部が鮮やかに現れ出てきます。読み手である自分もいつの間にかエントラーラを歩いているような錯覚を覚えてみたり。
前作『望楼館追想』を読んだ時にも思いましたが、閉じられた空間を精密に描くのが巧みな作家ですね。箱庭めいた世界の中で営まれる人々の生活が淡々と描かれる所にとても心惹かれました。
ケアリーの書く登場人物は風変わりで心弱い人々が多いので、読んでいてどうにもやきもきしてしまうのですが、社会(世界)に祝福されない(受け入れられない)人々の穏やかな諦めのようなものは透明感があって好みです。自分を中心として世界を見据えて生きていくのではなく傍観しながら生きる世捨て人や彷徨い人の視点とでも云いましょうか、一種独特の距離感が良いなぁと思います。考え方としては相当後ろ向きなんですけども。

エントラーラを描いたこの物語は同時にアルヴァとイルヴァの生涯を描いた物語でもあります。分かち難く結ばれた双子が別離の時を経て、再び強いつながりを得る場面は切なくも美しく、一番印象に残りました。

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2005.02.22

デイヴィッド・アーモンド+金原瑞人トークショウ

『火を喰う者たち』の出版記念としてデイヴィッド・アーモンド、金原瑞人両氏のトークショウが開催されます。

--デイヴィッド・アーモンドが描く「奇跡」とは--
日時は2005年4月2日(土) 18:30~
ジュンク堂書店池袋店 4階にて。
ドリンク代:1000円

著者御本人が来日するだけでも凄いのに、訳者の金原瑞人先生まで!
しかも『火を喰う者たち』の朗読まであるそうです。何と豪華な。

詳細は
河出書房新社サイト
ジュンク堂
にて。

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禁じられた約束(ロバート・ウェストール)

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『禁じられた約束』
ロバート・ウェストール 著、野沢佳織 訳、徳間書店 刊

第二次世界大戦が間近に迫った英国。
海辺の小さな町で暮らす十四歳の少年ボブは美しい少女ヴァレリーと出会う。
病弱なヴァレリーの話し相手として度々彼女の家に招かれるうち、ふたりで過ごす時間はかけがえの無いものになって行く。
ある日、外出を禁じられている彼女を秘密の散歩に連れ出したボブは満ち足りた時を過ごすのだが、ささいな出来事で不安に駆られたヴァレリーは、「よくこわい夢を見るの。迷子になってるのに、だれもさがしに来てくれないっていう夢。だから、約束して。もしわたしが迷子になったら、きっと見つけてくれるって」と思いつめた様子で云う。
そんな彼女の言葉にボブは約束してしまう。
この「約束」がどんな意味を持つかもわからないままで……。

相手を求める一途な気持ちの眩しさと怖さを描いた作品。
丹地陽子さんの物哀しくも美しいカヴァー画が作品のイメージにぴったりでした。徳間書店の児童書はデザインが素晴らしいので手元に置きたくなる物が多いのですが、この本も飾っておきたくなうような美しさです。
第二次世界大戦が始まる直前の英国が舞台なので、ひたひたと迫ってくる戦争の足音を聞きつつ、ふたりの恋と「約束」の行方を見守るように読み進めました。
ウェストールと云えばやはり戦争児童文学の名手ですので、戦争にまつわるエピソードがきちんと織り込まれています。実際に読んでみるまでは幻想性よりも現実性の方に重きを置いている話なのかと思っていましたけれど、戦況の悪化とボブの不安定さを呼応して描く後半部分は思春期特有の繊細さと相まって幻想的な雰囲気が深まっていました。現実から次第に乖離していく主人公の姿というのは綿密な描写でこそリアリティが出るのですね。
ホラー的な部分もありますが、基本的には思春期小説もしくは初恋物語ってな感じで楽しむのが良いかと思います。
物語に漂う品の良さや語り口の巧さは熟練の作家ならでは。

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2005.02.14

ファントム(スーザン・ケイ)

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『ファントム』上
スーザン・ケイ 著、北條元子 訳、扶桑社ミステリー文庫 刊

現場に足を踏み入れたとたん、足場の灰色の塁壁の上を幽霊のように滑らかに動いていく、痩せた子供っぽい姿に気づいた。それは昇り染める日の光の中で奇妙なくらい不気味に見えた。私は憤慨して怒鳴ったりせず、少年が湿った石を指で愛撫する様子をしばし眺めていた。しばらくすると少年は後ろへ下がり、異教の神に祈るドルイド教の司祭のように両手を壁に向かって差し上げ、自分の周囲の空気を形造りでもするように両手をリズミカルに動かし始めた。これは今まで私が見た、最も奇妙で美しい光景のひとつだった。少年と建物との神秘的で不可思議な交感に魅せられて、私は息もつかず見とれていた。
(上巻P193~194より引用)

『オペラ座の怪人』を元に、怪人=ファントムを主軸に据えて語った小説。数年ぶりに再読してみました。文庫初版が1994年だったのでもう十年以上前の作品ですが、久し振りに読み返してみて面白かったので感想文をば。
主人公エリックの誕生から死までを描いた一代記であり、何よりも「愛」を描いた物語だと思います。男女の愛情と云う狭義の愛ではなく、もっと広義で様々な形の「愛」と赦しの物語。ガストン・ルルーの原作を読んでいなくても充分楽しめるとは思いますが、読んでいればより一層の楽しみが得られる作品です。勿論この作品単体が小説として上質なのは云うまでもありませんけれど。

醜く生まれついてしまったが為に母親にすら疎まれ、流浪の生活を余儀なくされた男がパリ・オペラ座に終の棲家を見出すまでが紙面の半分以上を割いて丁寧に描写されていまして、再読してみて気がつきましたが、原典のメインエピソードの描写は思っていたよりも短かったのですね。その分濃密に描かれているので物足りないなどと云う事は決してありませんし、むしろこの分量で満足の行く展開を書き切った著者の力量に改めて感心してしまいました。
彼が生まれ育ったフランス、イタリア、ロシア、ペルシア、そして流浪の果てに辿り着いたパリ・オペラ座。次々と移る舞台となる土地の素晴らしさもさることながら、エリックというひとりの天才に関わった人々が語り手となり、そしてまたエリック自身の苦悩に満ちた心情が語られる所がこの作品を魅力的にしている所以でしょう。彼が抱く、美しいものへの切ないまでの憧れには非常に胸を打たれます。

読んでいて盛り上がるのはやはりオペラ座の地下に移り棲み、クリスティーヌと出会ってからだと思いますが、個人的に一番好きな箇所はローマで石工のジョヴァンニ親方に見出されるあたり。上記の引用部分は親方が始めてエリックと出会うシーンです。
もともと師弟ものには弱いんですが、得られなかった夢の息子としてエリックを優しく見守り導くジョヴァンニ親方と、師であり父親でもある最大の理解者を得たエリック少年の交情が良いんですよ。周囲からは人間扱いされず、自分を否定しながら心身ともに傷だらけで生きてきたエリックをはじめて人としての尊厳を持って扱ってくれたジョヴァンニ親方。ふたりの穏やかな暮らしは長く続かないとわかっていても、このままでいて欲しいと願わずにはいられませんでした。
この物語の中でエリックに最大の救いをもたらすのがクリスティーヌなのは勿論なのですが、ささやかな幸せとは縁遠かったエリックがほんの束の間得た平穏な暮らしの中で才能を開花させ、見返りを求めない師(父)の愛情を受けた喜びの日々が彼の心の奥底で温かい思い出としてほんの少しでも残っていたからこそ、人間全てに絶望せずにペルシャ人ナーディルと友情を結ぶことができたり、クリスティーヌの救いを受け入れられたのはないかと思ってみたり(って個人的な願望の入り過ぎかもしれませんが)。

原作・ミュージカル・映画で語られなかった部分、疑問に思う部分の答えが作者なりの形で提示されているので、「オペラ座の怪人」に興味のある方は是非どうぞ。

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2005.02.09

新刊メモ

『シェイクスピアの密使』(ゲアリー・ブラックウッド)
シェイクスピア一座の少年俳優ウィッジのシリーズ三冊目。けっこう久し振りかな。

『ふたりのアーサー3 王の誕生』(ケビン・クロスリー=ホランド)
ようやく完結巻が翻訳されました。

『オラクル』(キャサリン・フィッシャー)
訳は井辻朱美さん。

『ヰタ・マキニカリス』上(ちくま文庫版 稲垣足穂コレクション2)

『鉱石倶楽部』(長野まゆみ)
ハードカヴァー版は持っているのですが。

『暴夜幻想譚』(東雅夫編)
待ってましたー!

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2005.02.05

異次元創世記 赤竜の書(妹尾ゆふ子)

『異次元創世記 赤竜の書』
妹尾ゆふ子 著、角川スニーカー文庫 刊

「この世は古い言葉からつくられたのだ。古い言葉にないものは、存在し得ぬ」
 意味が染みこむまで、すこし、時間がかかった。
 ジェンは眼を見開き、イーファルを見た。イーファルの眼は変わらずに黒く、寒々しい光をたたえていた。
 古い言葉で、イーファルはくり返した。
『この世は、古い言葉からつくられた』
 ──嘘だ。
 この女はひょっとして、どこかおかしいのではないか。
 ──嘘に決まっている。
『銀の声持つ人々のひとりが、ある言葉を生み出した。その言葉の力はあまりにも強かった。その言葉は世界を形作った』
 追い打ちをかけるように、イーファルは告げた。
『古い言葉を語るのは、世界それ自体を語るのと同じことだ。だから、古い言葉では嘘をつくことはできない』
(上掲書P133より引用)


竜使の孫である少年ジェンは未熟な存在である自分に不安ともどかしさを感じていた。
しかし、イーファルと名乗る美貌の<物語り師>と出会った事から彼の人生は大きく変り始める…。

舞台となる世界や設定やらが好み過ぎてもうどうしましょう~って個人的な趣味はひとまず置いておいて。ハイ・ファンタジーが好きならばツボ直撃な作品かと思います。何で入手困難なんだ勿体無い~!と思わず叫びだしたくなりました。(←落ち着いて)
意外だったのは、思っていたよりもオーソドックスな成長物語だった事でしょうか。もうちょっとシビアな展開になるのかなと想像しながら読んでいたので逆の意味で驚きましたよ。
ファンタジー作品として魅力的なのは勿論なのですが、主人公ジェンの焦りや迷いが厭味の無い形で描かれていて良かったと思います。これは彼自身の魅力による所も大きいのでしょうけれど。いい子だよなぁ、ジェン。
脇に廻るのは曰くありげな剣士フィアラスに、人ならぬ美貌を持つ<物語り師>イーファル。それぞれの過去や行く末が気になってたまりません。
彼らの活躍は続く『真世の王』で堪能できそうなので楽しみです。


この作品は復刊ドットコムにて復刊リクエストを受付中です。
詳細はこちらからどうぞ。

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