シェイクスピアの密使(ゲアリー・ブラックウッド)
『シェイクスピアの密使』
ゲアリー・ブラックウッド 著、安達まみ 訳、白水社 刊
去っていくぼくに、ラ・ヴァアザンは声をかけた。「ほんとうは、人間は運命の道化じゃないんだよ」
「ちがうの? じゃあ、なんなの?」
「運命の道具さ。運命の女神に対抗してもだめだって思うだろ? 運命の女神は人間がなにをしても思いどおりにしちまうって。でも、わからなかい? 人間が運命の女神をだまそうとしたり、変えようとしたりしてがんばるから、ものごとがおこるべき形でおきるんだよ」
(同書 P326より引用)
1602年、ロンドンの冬。
宮内大臣一座の少年俳優ウィッジは15歳になり、変声期を迎えつつある自分に不安を抱いていたが、女性の役で舞台に立ち、シェイクスピアの口述筆記や裏方作業をこなしながら役者の徒弟仕事に励む日々を過ごしていた。
ある日、ストラトフォードからシェイクスピアの次女ジューディスが父を訪ねてやって来る。ウィッジは彼女に恋心を抱き、芝居の稽古にも身が入らない。加えて、彼女の関心を得ようするあまり芝居を書いていると云う嘘までついてしまう。ウィッジの窮状を知ったシェイクスピアは書きかけの芝居を譲り、ウィッジは何とかこの作品を完成させようとする……。
このシリーズの魅力は舞台の裏側を少年の視点から活き活きと描いてみせる所にあると思います。今回はウィッジが創作の苦しみと悦びを知るあたりを楽しんで読みました。この時代の劇場の内情も詳しく語られているのも興味深いです。
エリザベス女王の治世の終わりから新王ジェイムズの即位、カトリックに対する迫害、ペストの流行など、時代背景も巧みに織り込みながら歯切れ良く語られておりますね。これは訳の読みやすさの力も大きいかな。わかりやすく読みやすい訳ってなかなかありませんけれど、安達まみさんの訳は両方を備えていると感じました。
たくさんの情報を盛り込みながら読みやすいって云うのは凄いんですが、登場人物達の心情に関しては結構淡白な気がして、その点ではちょっと物足りないようにも思えます。著者は心情の描写にはあまり重点を置いていないのかな。ウィッジの翻弄されっぷりはなかなかのものでしたけど(笑)。テティにも「大人になるまでまっててほしい」なんて云われちゃうし、実は結構もてるんじゃないのか、ウィッジ?
「いったでしょ。ウィッジはあたしを待ってなくちゃいけないの。できるだけ早く大きくなるから」(P202)って台詞はもう可愛くってなぁ! 年上の男の子にこましゃっくれた口を利く女の子って良いわ~とうっとりでした。いっそ本当にくっついて欲しいくらいですよ(笑)。
さて、作中でシェイクスピアがウィッジに譲った芝居は『アテネのタイモン』という作品。シェイクスピアと他の劇作家の共作なのだそうで、その点を上手く使って物語に取り入れています。もっとも、実際の年代とは合致していないそうですが、ま、そこは創作上の演出だから固い事を云うのは無粋と云うものでしょう。
この作品を読んで興味を引かれたので機会を見つけて読んでみたいと思っています。
実際の舞台さながら、退場する登場人物もいれば戻ってくる人物もいます。
今回嬉しかったのはやはりフランスに行ったジュリアの再登場ですね。彼女の秘密に関しては正直どうなのかな~と肯定しがたい部分もあったのですが、続巻でそれが生かされてくれば良いな。
ジェイムズ王が即位したって事でこのシリーズ内で『マクベス』が言及される事もあるかも?とその点でも続きが楽しみです。
勿論ウィッジの成長にも期待してますよ~。



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