よしきた、ジーヴス (P・G・ウッドハウス)
『よしきた、ジーヴス』
P・G・ウッドハウス 著、森村たまき 訳、国書刊行会 刊
彼はいまや立ち上がっていた。手には白い物体を持っている。それを見て僕は、家庭内の危機、ふたりの屈強な男たちの不幸な意志の衝突が再び出来したことを理解したのだった。そしてまたバートラム氏は、戦士であった祖先を思い己が権利のために戦わずば、今まさに打ち挫かれんとしているのである。(中略)
僕は強硬な姿勢に出ようとした。
「なんだい? ジーヴス」僕は言った。言い方はもの柔らかだったが、僕の目を注意深く観察すれば鋼鉄のひらめきがほの見えたはずだ。ジーヴスの知性を崇拝する点において僕は誰に一歩譲るものではないが、彼を養っているその手に対して命令を下すという彼の性癖には抑制が加えられねばならない。このメスジャケットは僕のハートのごくごく近くに位置するもので、アジャンクールの戦いにおける偉大なるド・ウースター殿の熱情をもって、こいつのために戦ってやる用意が僕にはあるのだ。
(同書 P18~19より引用)
待望の国書刊行会版ジーヴスの2冊目です。
戦士としての祖先を誇りにし、その功績に思いを馳せるのならば、そろそろ君の辞書には「策略」の文字が似合わない事を理解した方がいいんじゃないかバーティ君よ……(遠い目)。
負ける気がしないとか、この勝負貰った!とか、全て自分の目論見通りに事が進むぜとかの台詞はバーティには全く似合いませんが、ここまで見事な負けっ振りを見せて貰えるとは思いませんでしたよ(笑)。
連作短篇に比べるとやや展開に冗長さが感じられますが、バーティがフランスで誂えた金ボタンの白いメスジャケットのネタを引っ張って300ページ程の長篇が成立するのが凄いです(笑)。
いっやぁ、このジャケットが余程気に入らなかったんだねジーヴス。バーティもアホの割には服装に関してはちょいと意固地な所があって決して譲らないものですからふたりの間の緊張感には読んでいるこちらもドキドキですよ!
そして毎度のお約束通りに、このジャケットを巡ってふたりの間には険悪なムードが流れてしまい、バーティは友人たちの恋愛問題やダリア叔母さんがもたらす厄介事をジーヴスの助力無しで片付けなくてはならない羽目に陥ってしまいます。どうするどうなるバーティ! ウースター一族の名にかけてこのトラブルを見事解決できるのかバーティ!(絶対無理)
バーティの友人ガッシー(オーガスタス・フィンク=ノトル氏)とマデライン・バセット嬢、タッピー(ヒルデブランド・グロソップ氏)とアンジェラ・トラヴァース嬢の複雑な恋模様(勿論このもつれにはバーティの手腕があます所無く発揮されてます・笑)、果てはダリア叔母さんの金銭問題、至高の才能を持つフランス人シェフ、アナトールの進退問題まで加わって、さてさてこのもつれにもつれた難問をジーヴスがどのような手腕で解決してくれるのか?と興味津々で読み進めました。
ラストでは毎回バーティを哀れに思ってしまいますが、今回はトラヴァース家の執事セッピングスからある衝撃の事実を知らされるシーンには涙を禁じえなかったですよ……。うわーバーティってば可哀相。いい歳してお風呂でアヒルのおもちゃと戯れていても、許す!許すよ!(←何様か)
前作のアガサ伯母さんも凄かったですが、今回登場するダリア叔母さんもかなり強烈ですね~。バーティを盛大にバカ呼ばわりする豪傑でございますよ。その娘たるアンジェラ嬢の舌鋒の鋭さもなかなかのもの。彼女の台詞にある「イギリス六大バカ」(P190)の中にはバーティが含まれているのかどうかが激しく気になります(笑)。
バーティの周りにいる女性はタイプは違えど皆傑出した女性ばかりなのかしら。
まったく、よく女性不信にならないもんだと感心しておりますよ~。



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