トロルの森の物語─北欧の民話集 (ウィリアム・クレーギー)
『トロルの森の物語─北欧の民話集』
ウィリアム・クレーギー 編 、東浦 義雄 編訳、東洋書林 刊
スコットランドの学者が北欧の民話や伝説をまとめた本です。
ノルウェー・スウェーデン・アイスランド・デンマークなど北欧各国の話が収められています。個人的なイメージでは民話が豊かな場所はノルウェーやアイスランドあたりなのかなと思っていましたが、デンマークやスウェーデンにも様々な話があるのだなと目から鱗が落ちるような気分でした。アイスランドとスコットランド北部のちょうど真ん中あたりに位置するフェロー諸島の民話もひとつのまとまった地域の話として採取されていまして、このフェロー諸島は地図を見る限りでは北欧の影響が見られるシェットランド諸島やオークニー諸島にも近く、両諸島との関わりも深そうな点でも興味を引かれました。
北欧民話で有名なのはやはりトロルではありますが、ケルピーを思わせる水馬、家憑き妖精のニッセ(本書中では同族とされるブラウニーと表記)、アザラシ女房など、英国やアイルランドに出てくる妖精たちと同じ仲間と思われる種族も出てきます。民話として共通する部分もあるのでしょうけれど、民族が移動する際に物語も伝播したのではないかと考えてみるのも楽しかったです。
北欧独自のものとしては最北部に住むラップ人やフィン人に関する話が面白く、スカンディナヴィア系の住民とは使用する言語も人種も習慣も違う為か非常に神秘的な民族として捉えられていたようで、彼らは魔女や妖術師として民話の中で活躍しています。原始の力強い魔力を操る人々はシベリア民話の登場人物に近しい雰囲気がありました。
そう云えば、ヨナス・リーの『漁師とドラウグ』の中にあった話でも、ラップ人たちは謎めいた魅力を持った人々として描かれていましたね。
英雄譚としてはノルウェーの「巨人ドーフリ」と云う話が一番印象的でした。
9世紀の半ばのハルダン黒王の御世、王の所有する財宝が次々に盗まれる事件が起こり、王は強いまじないをかけ、鋼鉄の足枷と鉛をよりあわせた紐を準備して犯人を捕らえようとします。王の配下が六十人がかりで捕らえたのが巨人ドーフリ。悪事を働いた事を認めて許しを乞う巨人に王は許しを与えず、「お前には食べ物はいっさいやらぬ。もし誰かがお前に食べ物を与えるようなことをした場合は、その者も生かしてはおかぬ」と云い渡してその場を去るのですが、その後まもなく、当時5歳だったハルダン王の息子ハーラル王子が事の経緯を聞き、巨人を縛めから解き放ちます。
この事に腹を立てた王は息子を館から放逐し、森の中を彷徨うハーラル王子はドーフリに救い出され、その後は巨人を父として育ちます。そして、彼の元で武芸や教育を施された王子はハルダン王の死後、ドーフリによって再び人間世界に送り返されるのです。
この話はドーフリがハーラル王子に願掛けめいた忠告(ノルウェーの統一者となるまでは髪も爪も切ってはならない)と、戦の際の助力を約束して送り出す所で終っていて、この後ハーラル王子は恐らくノルウェーを統べる王となる事は予想がつくのですが、英雄が超自然の養育者を得ることは伝説や民話では特に珍しい事ではないにせよ、その養育者を英雄が先に救っているというのはあまり例が無いような気がします(単に自分が不勉強なだけかもしれませんが)。この話はもうちょっと長いヴァージョンで読んでみたいです。
北欧の民間伝承の色々な部分を味わえた一冊でした。この方面に興味のある方は是非。



Comments