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2005.10.11

アルレッキーノの柩 (真瀬もと )

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『アルレッキーノの柩』
真瀬もと 著、早川書房 刊


「名前をつけるがいい。きみのなかの葬りたい過去。消し去りたいきみの苦しみに」
「僕は、そんな──」
「アルレッキーノ」と公爵は呼んだ。
 藤十郎は眉をひきしぼった。自分の心の一部を引き裂かれ、そこに名前を刻まれた心地だった。それでいて痛みはない。まるで綿でもちぎるようにやわらかに裂かれた彼の心の片割れに、公爵は蠱惑的に囁きかける。
「アルレッキーノに柩を与えよう」
「どうやって──」
「私を信じたまえ」
「信じられない。あなたを──」
 信じてはいけないと、ふたりの人間が警告した。
 だが公爵は歌うようにつづける。
「追いかけてくる白い手、空ろな髑髏、細くて折れそうな彼女の首」
「よしてください!」
 両手で耳をふさごうとしたが、その手首をつかみとられた。いつの間にか公爵は彼の正面に立ち、間近に顔を覗き込んでいた。声は毒のように耳に流れ込む。
「すべてを、アルレッキーノの柩におさめて埋葬するがいい」

(同書 P211より引用)


1894年、ロンドン。
目下不在で所在もわからない気紛れな主人兼後見人の鷲見新平の趣味である稀覯書蒐集の為、手元にあった金を手付けとして使ってしまった事から藤十郎の災難は始まった。
間借りしている下宿の家賃と契約更新を待って貰えずに追い出され、新しい下宿を探そうにも払うべき肝心の金は無い。
職探しもままならず、トラファルガー広場でため息をつくこと十三回。
その現場を赤眼鏡の紳士と黒衣の淑女に見つめられていた彼は、赤眼鏡の紳士──ハートレイ公爵から奇妙な依頼を受け、ロンドンを歩き回る羽目になる。最後に行き着いたのは《十二人の道化クラブ》だった。
このクラブ内では怪事件が起こっており、多額の報酬と持ち前の好奇心により探偵役を引き受けた藤十郎だったが、クラブの奇妙な風習や謎めいたメンバーの言動には戸惑わされるばかり。
そして、魔女に狙われていると主張していたメンバーのカーター博士が謎の死を遂げ……。


時は19世紀末。舞台はロンドンで最も風変わりで最も格式高いクラブのひとつ。
魔女伝説に絡んだ殺人事件、さらには切り裂きジャック事件のこだまも響いているような雰囲気なのかなと手に取ったのですが、予想していたものとはちょっと違っていました。
設定も舞台も凄く好みだったんですけれども、ヴィクトリア朝の濃密な空気のようなものがあまり感じられなかったんですよ。《十二人の道化クラブ》にしても、もっと特殊な雰囲気で演出されても良かったんじゃないかな~とも思ってしまいまして。特にハートレイ公爵以外のメンバーの皆様にはもっともっと藤十郎を惑わせて欲しかったし、個人的に麗しのジュリアにはもうちょっと見せ場が欲しかった!
文章はとても読みやすいのにいまひとつ乗れなかったのが残念でした。
内容に飽きてしまうと云うのではなく、何が何でもページをめくらせずにはいられない長篇ミステリ(だけではないですが)に不可欠な牽引力が足りない印象でしょうか。(←何様か)
新平さんが出てきたら事件が一気に動き出すのかと思えばそうでもなかったし。

主人公の藤十郎は事件を調査する十三番目の道化と云う名の特別会員として事件に関わっていくうちに、忘れようとしていた過去と亡くしてしまった大切な人の思い出と向き合わざるを得なくなる訳なんですが、ハートレイ公爵の過去とも絡めたこの辺りの雰囲気はとても良かったし、フランキーの活躍と彼女に振り回されている藤十郎を見ているのも楽しかったです(笑)。
陰惨な事件を扱っている割には結末に救いがあって後味も悪くないので、主人公の成長もの(青春小説と云うか通過儀礼小説?)としては好感が持てましたが、ミステリとして考えるとちょっと物足りなさが残るかもしれません。(←だから何様か)
好きか嫌いかで云えば好きな雰囲気ではあるのですけれど。

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