イギリス恐怖小説傑作選 (南條竹則 編訳)
『イギリス恐怖小説傑作選』
南條竹則 編訳、ちくま文庫 刊
幻想的な怪異譚や正統派の怪奇作品が端正な翻訳で読めるアンソロジー集。
珍しいところではラファエル前派の画家にして詩人のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの散文や、詩人バイロンの書いた断章が収録されています。
ロセッティの「林檎の谷」はキーツの「つれなき美女」を連想させるような作品。
作中に出てくる金髪の魔性の女はまさにファム・ファタルそのもので、読みながら彼の描いた「魔性のヴィーナス(Venus Verticordia)」などを思い浮かべておりました。
バイロンの作品の方は、謎めいた友人ダーヴェルと共に東方へ出かけた語り手の「私」が旅先で彼の死を看取る事になり、ダーヴェルが(おそらくは人ならざる者として)死から甦るような雰囲気を漂わせつつ終っています。
個人的にバイロンと云えば吸血鬼のイメージと分かち難く結ばれているので、このダーヴェルもやはり吸血鬼として再生するのだろうかと想像(妄想)してしまいました。
収録作で好きだったのは怪奇よりも幻想味の強い作品の方で、友人を亡くして失意の底にあった男が気分転換の為に出掛けた知人の家で子供の幽霊に出会う話の「小さな幽霊」(ヒュー・ウォルポール)は、前半の孤独の耐え難さに比して後半の温かな慰めがほのほのと優しい読後感をもたらしてくれました。
音楽をめぐる怪談とも云うべき「人殺しのヴァイオリン」(エミール・エルクマン / アレクサンドル・シャトリアン)は物騒なタイトルと裏腹な美しさを持った作品。思わず霊が奏でる天上の調べに酔いたくなってしまいます。
怪奇物で一番怖かったのは、H・R・ウェイクフィールドの「目隠し遊び」。
構成に全く無駄のない引き締まった短篇で、怪談につきものの過去の因縁話すら削ぎ落とされています。
最後に出てくるラント氏の台詞の繰り返しがこれまた絶妙。これを読むと暗い所で眠れなくなりそうですよ……。
後書きでは怪談愛好家としての訳者の生い立ちが語られていて、飄々とした味わいを持つ随筆を読むように楽しみました。なんとなく薄気味悪い感じ(※褒め言葉)が内田百閒の短篇の雰囲気に似ているような気がして非常に魅力的でした。



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