« かなしき女王 (フィオナ・マクラウド) | Main | エムズワース卿の受難録 (P・G・ウッドハウス) »

2005.12.16

猫舌男爵 (皆川博子)

画像クリックでamazonへ

『猫舌男爵』
皆川博子 著、講談社 刊


 私の色は、青です。空も、風も、青で表現できます。黄昏の森。梢の先端が含むのは、かすかな青です。(中略)
 幼いとき、私は不思議でならなかったのでした。なぜ、絵本の太陽はいつも赤だけで描かれているのだろう。落日は赤いけれど、中天に高くかかる真昼の太陽は、強烈な青です。青い太陽を中心に、光は青い波紋となって空いっぱいにひろがるのです。ジークムント・グリューンフォーゲルは、太陽が青いことを、私によって知ったのです。十七歳の私が描いた絵を見るまで、四十年あまりも生きていながら、ジークムントは、太陽が青いことを知らなかったのよ。

(同書P161~162 「睡蓮」より引用)


短篇集。表題作以外は暗い色彩を持った重めの作品です。長篇作品に受け継がれているようなモティーフもちらほら。


「水葬楽」
死に取り巻かれたような場所で生きる語り手の「わたし」。
淡々とした語りの合間に差し挟まれる詩が残酷なイメージを抑えて美しさを際立たせていました。
容器の中で聞く、それぞれの脳がつくりだすと云う音楽は一体どのようなものなのでしょうか。

「猫舌男爵」
山田風太郎の作品を通じて日本の小説に興味を持ったヤン・ジェロムスキが翻訳した『猫舌男爵』を巡る喜劇(?)。
翻訳に関するドタバタに皮肉が利いていておかしいです。結構ちゃっかりしててお調子者なヤンがいい味出してます(笑)。

「オムレツ少年の儀式」
自分を騙し続けて毎日を過ごす少年。その欺瞞が破綻した時、彼は……。
貧しさ故の閉塞感とそこからの脱出。それは解放なのか新たな軛なのか。救いのないような話なのですが、読後感は悪くないのが意外。

「睡蓮」
才能に溢れた女流画家をめぐる物語。
最後にある付記によると、偉大な芸術家とその女弟子は実在の人物をモデルにしているそうです。
その才能故に身体にも魂にも深い傷を負った女性の悲しみは、モデルとなった人物と作中の画家エーディトを重ね合わせる事によっていっそう切実に伝わってくるようでした。
自身が持つ才能さえも対等な武器となり得ずに敗れ去ってしまった彼女たちですが、本当は師である男たちが及ばない程の価値を持った作品を生み出したのではないかと思います。

「太陽馬」
最悪の戦況の中、半壊した図書館の地下に立て篭もる5人の男たち。彼らが選ぶのは降伏か死か。
死と隣り合わせの現実と、指絃で意思を通じ合わせる人々が暮らす不可思議な魅力に満ちた幻想世界(文章がこれまた美しいのです)。そして語り手の回想が入り混じり、収録作の中で一番印象的でした。


著者の描き出す多彩なイメージを楽しみたい方にはお薦め致します。
分厚い長篇はちょっと……とお思いの方も取りあえずこちらを読んでみては如何でしょうか。相性が良さそうだったら是非とも長篇へチャレンジしてみて下さい。

|

« かなしき女王 (フィオナ・マクラウド) | Main | エムズワース卿の受難録 (P・G・ウッドハウス) »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/7232/7654635

Listed below are links to weblogs that reference 猫舌男爵 (皆川博子):

« かなしき女王 (フィオナ・マクラウド) | Main | エムズワース卿の受難録 (P・G・ウッドハウス) »