スカラベ サソリの神3 (キャサリン・フィッシャー)
『スカラベ─最後の戦いと大いなる秘密の力 サソリの神3』
キャサリン・フィッシャー 著、井辻朱美 訳、原書房 刊
長いこと、盗人と王はお互いを探るように見つめあっていた。やがてアルジェリンがミラニィをインゲルドの腕の中に押しやると、一歩出た。
「おまえはだれだ」
ジャッカルは腕組みをした。少しあって、澄んだあざけるような声がかえってきた。
「おまえの影だ。神とはすべからく影をもつものではないか」
(同書 P186より引用)
ジャミル皇子を人質にし、北方からの傭兵団を雇い入れ、さらにはアルコンに成り代わろうとする将軍アルジェリンの独裁と蛮行は留まる事を知らず、<二つの国>の国情は乱れていた。
<お告げ所>を脱出し、クレオンの元へ向かおうとするミラニィは面変わりしたセトと再会する。
彼の機転で難を逃れたミラニィだったが、セトの行動に疑惑を持たずにはいられない。
一方、アルジェリンの元へ向かったセトは将軍にある申し出を持ちかけるのだが……。
女神への復讐の為に自らを神となそうとするアルジェリンの狂気、攻め入ってくる皇帝軍に備えて雇った筈の北方傭兵団の反乱、女妖術使いマントの野心と暗躍、欺いたり欺かれたりと陰謀に翻弄される人々。
最終巻にも関わらず物語はどんどん錯綜していき、先の展開の見当もつかないままどんどん読み進めていく事になりました。
そして何よりも凄かったのは、光と影、神と人間、男と女、地上と地下、追う者と追われる者、偉大なものと卑小なもの、そして生と死、対照的でありながら互いに呼応しているものの逆転が描かれていた点でしょうか。
上に引用した、地上世界の王になろうとしているアルジェリンと地下世界の権力者ジャッカルが相対する場面や、ミラニィらが冥界に下った後セトに与えられた役割も逆転のうちに入るかと思いますが、何と云っても一番驚いたのはアルジェリンの変貌でした。
1巻目では野心に溢れる将軍という悪役だった彼がこの巻では大いなる悲劇性を湛えた人物となり、特にハーミアへ心情を吐露する場面から地上への帰還、そして<女王>との約束の流れは神話や伝説そのものと同じ深みを持ち得ていたかと思います。
アルジェリンの存在がここまで大きくなるとは1巻読了の時点では正直予想もしていなかったので、全三巻中で一番印象に残ったのは本書での彼の言動だったかもしれません。矜持の貫き方も最後まで天晴れでした。その辺りはハーミアと通じる所があって、彼らはやはり強い絆で結ばれた運命的な恋人同士であったのかと感じました。
セトは内面さえ詳しく語られなかったら行動はすべて大胆な英雄的行為に見えるんでしょうが、取り繕ったりあがいていたりしていた所が人間的で良かったです。2巻でぐんぐん株が急上昇したジャッカルは最終巻でも活躍してくれました。贔屓キャラだったので嬉しい。
物語の終わりでもあり始まりでもある最終巻の本書では、象徴とそれに伴うイメージの奔流と飛翔感を存分に味わいました。クライマックスの連続のようなスピード感溢れる語りも健在で大満足です。
訳者の井辻朱美さんの熱いあとがきを含めて、ファンタジー作品の醍醐味を充分に堪能できる三部作ですので未読の方は是非!! 強くお薦め致します~。



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