聖杯の王 (ひかわ玲子)
『聖杯の王─アーサー王宮廷物語 2』
ひかわ玲子 著,筑摩書房 刊
凄まじい何かの力が、この場に流れ込んでいた。それは、人の領域ではないものだ。闇と光が交わり、新しい何かを生み出そうとしている。その渦が目の前にあった。
コトン……音がする。運命の縦糸が、運命の横糸と絡まる。そして、確定していく。
カタン……音がする。また、運命が時を刻む。人が逆らえぬ力、誰もがそれぞれの運命に絡み取られていく。否応なく。それは、そのタペストリーを織るエレインだとて例外ではない。予言の内容は左右できない、とエレインはよく言っていた。それは、わたしの指先にやどるだけなの、と。
コトン……また、音がする。運命を刻んでいく音だ。また、どこかで誰かの運命が定まった。逆らえない運命の中で、それでも人はあがく。あがき、流され、そしてその中で喜び、悲しむ──その繰り返し。カタン……音がする……。
(同書 P254より引用)
アーサー王の輝かしい治世を象徴する円卓。その席は常に円卓騎士団の名に相応しい者たちで占められていた。
モードレット王子のとりなしで円卓の間への入室を許されたメイウェルは、サー・ユウェインの席の隣に「サー・パーシヴァル」という見知らぬ騎士の名前が浮かび上がるのを目にし、未だ埋められたことのない唯一の席、王の椅子より十三番目にあたる「危難の椅子(ペリラス・シート)」と呼ばれる空席では、人でもなく神仙でもない美しい青年の幻を見る……。
2冊目となるこの巻では、聖杯と登場人物たちのそれぞれが抱く思いを絡めて物語が進行していきます。
ランスロットとギネヴィア王妃の恋のもつれはシャロット城の塔の中で人目を避けた暮らしを送るエレイン姫へも影響を与え、彼女の運命は悲劇的な状況へと導かれます。
関わった人々すべてに不幸をもたらす激しい愛のままならなさと複雑さは、誰が悪いと云い切れないだけに切ないばかりでした。
そして、エレイン姫の報われない想いは聖杯の存在と密接な関係を持つことになりますが、実らない片恋の行き場をなくした激しい感情の向かう先をこういった形で表現するとは予想もつかず、彼女が運命に対して成した「復讐」と予言の成就、地上に繁栄をもたらす聖杯を見出す為に生まれた特別な騎士ガラハッドの出自には著者独自の解釈が生きていて素晴らしかったと思います。テニスンや漱石の作品のこだまも響かせた巧みで鮮やかな表現にも唸らされました。
この件りはエレインの激しい情念があますところなく描かれており、好みは分かれるでしょうが秀逸な箇所ではないかと。
エレインの悲恋によってメイウェルやフリンも精神的な成長を遂げるのですが、次巻での彼らは一体どうなってしまうのか、聖杯探索にはどのような決着がつけられるのか、そしてログレス王国の辿る運命はどのようなものなのか。
すべての答えが出るであろう最終巻も楽しみです。



Comments