キャメロットの鷹 (ひかわ玲子)
『キャメロットの鷹─アーサー王宮廷物語 1』
ひかわ玲子 著, 筑摩書房 刊
妖精の島アヴァロンから魔術師マーリンによってキャメロットに送られた双子のフリンとメイウェル。彼らには鳥に変身できる力があり、フリンは鷹に、メイウェルは鷦鷯(みそさざい)にそれぞれ姿を変えられる。
兄のフリンは王の小姓として、妹のメイウェルは王妃の女官としてそれぞれアーサー王の宮廷に仕えていた。
ある日、繁栄を誇るログレス王国の華やかな宮廷にアーサー王の姉たちが招かれるのだが、彼女たちの訪れは王国の運命を大きく動かしていくことになる。
そしてメイウェルは思わぬ出来事から王暗殺の陰謀に巻き込まれ……。
ケルト伝承を重厚なきらびやかさで再話した、『イスの姫君』の著者であるひかわ玲子さんのアーサー王伝説がようやくまとまったとのことで、どんな風に料理してくれるのかとわくわくしながら手に取りましたが、勝手に想像していた、禍々しく妖しく美しい雰囲気とは全く違っていたので驚きました。
ギネヴィア王妃に仕える女官メイウェルの視点から主に語られる物語なので、王国を揺るがす陰謀が絡んでいてもどこか軽やかで瑞々しい印象でした。
メイウェルが騎士ユウェインに寄せる淡い恋や、王子モードレットにも心惹かれてしまう戸惑いなど、柔らかな心を持つ少女の視点の甘酸っぱさが出ていてくすぐったいような気持ちにさせられますが、少女小説の趣を備えつつも要所要所ではきちんとしたファンタジーなので、アーサー王伝説を知らない方でも読みやすく、良い意味で敷居の低い作品だと思います。
この作品で感心した点は、アーサー王やマーリン、ギネヴィア王妃とランスロットなどなど、色々な再話で主役を張ってきた人物たちがメインになっていない所です。
物語中で頻繁にスポットが当たっているのは、女官であるメイウェルや、王の小姓であるフリン、円卓の騎士の中でも割合地味な役回りのサー・ユウェインなど、本来の伝説中ではおそらく脇役にまわってしまうような立場の人々です。物語を大きく動かしていく人々ではなく、その周りで様々な事件に翻弄される人々の姿を描くことによって、読者がキャメロットの宮廷内のひとつひとつの出来事に感情移入しやすくなっているのではないかと。
偉大な人物たちをメインに据えた物語を期待する向きにはちょっと物足りないかもしれませんけれど、アーサー王伝説のヴァリエーションとして今までこういったものはなかったような気がします。
人物造形にも新鮮で印象深いものがありました。特に王の甥で後継者となるモードレッドには原典でも再話でもあまり良い役回りが与えられていないのですが、この作品中のモードレット王子は美しく聡明で率直な青年として好ましく描かれています。ステレオタイプなキャラクター化でない点でポイントが高いのは勿論ですが、彼が王国の崩壊にどのように関わっていくのかという点でも興味が尽きません。
女性では、妖艶で謎めいた魅力に深い哀しみと憎しみをまとわせたモーゲン王妃と、タペストリーを織ることで様々な予言をもたらすエレイン姫が興味深い役割を振られていて、彼女たちがこの先物語とどのように関わっていくのかと云うのも先を読む楽しみのひとつになりそうです。次巻にも期待。



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