魔術師のたいこ (レーナ・ラウラヤイネン)
『魔術師のたいこ』
レーナ・ラウラヤイネン 著 荒巻和子 訳 春秋社 刊
わたしの道は歌の道、風の道
夜に来て、昼は去る
わたしの歌はつきることがない
いつも山の中で歌っている
(同書 P94「山の風」より引用)
ラップランドに住むサーメ人(サーミ人と表記する場合もありますが、本書ではサーメ人となっています)に伝わる民話の再話集。
原話に忠実なつくりのようなので、そのまま民話集として楽しめます。
12篇収録されていますが、最初の一篇は導入部にあたるので実質は11篇ということになるでしょうか。
収録作は以下の通り。
「魔術師のたいこ」
「青い胸のコマドリ」
「魔法の笛」
「風の帽子」
「オーロラのはじまり」
「太陽の野いちご」
「ウルダとアイリガス」
「青い大シカ」
「白樺の誕生」
「山の風」
「氷河に咲くキンポウゲ」
「銀の角のトナカイ」
この本の中で印象に残るのは自然の描写と音楽の美しさです。
例えば「魔術師のたいこ」の冒頭部分はこんな感じ。
山に秋がおとずれ、湿原に真っ赤なこけのじゅうたんをひろげました。谷底の沼にはもう初氷がはって鏡のように光り、秋が自分のすがたをうつしています。沼をとりまく白樺の木立は、さながら秋がともした、たいまつの列です。(同書 P6より引用)
厳しい自然の中で暮らす人々が語り継いできた話のせいか、自然現象や季節の移り変わりがとても美しく描かれています。 夏の鮮やかさも心に残りますが、冬の静謐な美しさも印象的。
最後の話になっている「銀の角のトナカイ」では、冴え冴えとした月と星の光の下で雪山を駆ける白いトナカイの姿が描かれています。 この描写がもうとにかく美しいの一言に尽きるんですよ。平易な言葉の翻訳なだけにその美しさが際立っていて、拙い想像力ではとても再現できないのですが、何度も読み返しているうちに自分も「言葉で言いつくせないほどの喜び」に満たされるような気がします。
物語の中で奏でられる音楽や、歌われるヨイク(サーメ人独特の歌)も忘れ難いです。
「魔法の笛」で少年が吹く笛の音色、胸の中に音楽が溢れていて、ひとつの歌では満足できないウーラマッチが歌うヨイク。音楽そのものであり、呪文のようでもあるヨイクを実際に聴いてみたくなってしまいました。どんなメロディに載せられて歌われるのでしょうか。
収録作はすべて美しくて好きなのですけれど、特に気に入っているのは、
光の精ツォブガと闇の精カーモスの戦いとラップランドにどうして白夜がもたらされたかが語られる「青い胸のコマドリ」、サンメリという賢い娘の結婚とオーロラが何故できたのかの物語「オーロラのはじまり」(この話にに出てくる守り岩のセイタが何ともユーモラスで!)、ラップランド人の心のより所になっている野いちごをめぐる「太陽の野いちご」、地の精の娘と恋に落ちた若者の話「ウルダとアイリガス」(異種婚姻譚なのに悲劇に終らない所が珍しいかも)、食べる為の仕事は満足に出来ないけれど、胸の中にはヨイクが満ちている青年ウーラマッチの話「山の風」、魔術師ツォラオアイビの白いトナカイを狩ろうとする男の話「銀の角のトナカイ」あたりかな。
内容も良いのですが、装丁がとても素敵なので手元に置きたくなりました。
カヴァーのデザインも(見返しの野イチゴの模様も含めて)、各扉のカットも素朴で象徴的なのに洗練されていて素晴らしいです。イメージぴったり。
寒い国の民話に興味がある方や、短くても心に残る美しい物語を読みたい方にはお薦めです。
魔術師ツォラオアイビが残した魔法のたいこの響きに耳を澄ませてみて下さい。



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