淑やかな悪夢 (シンシア・アスキス 他)
『淑やかな悪夢』
シンシア・アスキス他 著 倉阪鬼一郎・南條竹則・西崎憲 編訳 創元推理文庫 刊
英米の女流作家の恐怖小説を集めた短篇集。
恐怖小説や怪談話に造詣の深い訳者の方々の手腕が発揮された上質のアンソロジーとなっています。
怪談話の肝は語り口だと常々思っておりますが、やはり翻訳が端正でわかりやすくあってこそ怖さも引き立つものだなぁとこの本を読んで感じました。
巻末の訳者鼎談も翻訳論や恐怖論を語る読み物として面白かったです。
収録作中で純粋に一番怖かったのはシンシア・アスキスの「追われる女」。
つくりとしては非常にシンプルなんですが、それだけに突き落とされる結末にぞっとさせられました。
主人公が精神的にどんどん追い込まれていくシャーロット・パーキンズ・ギルマンの「黄色い壁紙」も別の意味で怖かったです。この作品、フェミニズム的に読み込むとまたずいぶん違った意味合いを持つかとは思われますけれど、恐怖小説としての怖さはかなりのものです。主人公が目にするものは超常現象なのか、それとも精神のバランスがどんどん崩れていった結果の産物なのか。読後に厭な気分になること受けあいですが、それだけに忘れ難い話となっております。
怖いと云うよりもその独特の雰囲気に惹かれたのがディルク夫人の「蛇岩」。
北海の傍に建つ荒れた城に人目を避けるようにして住む母娘。母親の束縛から逃れようとする娘は城を出ようとするのですが、その願いが叶うことはありません。やがて思いもかけない真実を知ることになった娘は……というのが大筋。舞台立てや過去の因縁など、怪談話によくあるパターンと云えばそうなのですけれど、作者の紡ぎだす幻想的で薄暗い雰囲気がなんとも云えず魅力的でした。この話で一番の怖いポイントは娘の意志的過ぎる行動かもしれません。
あと印象に残ったのは、箸休め的にユーモラスなパメラ・ハンスフォード・ジョンソンの「名誉の幽霊」。幽霊屋敷に招かれたロバートソンと、そこの住人である幽霊のジェレマイアの攻防とやりとりがなんとも愉快です。
坂田靖子さんの漫画にこういった雰囲気の作品があったのを思い出しました。
こういうのを訳されるのは絶対南條竹則さんに違いない!と確信してましたらその通りでしたね(笑)。
怪談話を楽しむ時季はちょっと過ぎてしまいましたが、蒸し暑い夜を過ごす際の枕元にどうぞ。



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