七王国の玉座 氷と炎の歌1 (ジョージ・R・R・マーティン)
『七王国の玉座 氷と炎の歌1』Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ
ジョージ・R・R・マーティン 著 岡部宏之 訳 ハヤカワSF文庫 刊
「(略) 恐れるべきものがない場合には、臆病者はだれにも劣らず勇敢でありうる。そして、義務を果たすのに代償が要らない場合には、われわれは皆、義務を果たす。そのようなときには、名誉の小道を歩くのは、なんと容易に見えることか。だが、あらゆる人の人生において、遅かれ早かれそれが容易でなくなる日がくる。選択せねばならない日がくる」
(『七王国の玉座Ⅴ』 P58より引用)
古代から続くターガリエン王朝を滅ぼした後、七王国の玉座を得たのはロバート・バラシオンだった。新王の下で統一されたかに見える七王国だが、その内情は穏やかならぬものであった。
北の領地で一族と共に静かな暮らしを送っていたスターク家の領主エダードは、親友であるロバート王自身から補佐役“王の手”に任命されるが、その出来事をきっかけにスターク家の子供たちまでが王権をめぐる陰謀へと巻き込まれることとなる。そして都へ赴いたエダードが前任者の死の理由を探るうちに行き着いたのは王位継承に関わる重大な秘密だった……。
中世のヨーロッパを思わせる異世界、七王国を舞台にした重厚的かつ緻密な架空歴史小説の開幕篇。
多彩な人物が登場し、戦記ものとしても群像劇としても非常に優れているのですが、何と云っても興味深いのが語りの視点です。
この物語の視点となる様々な人物たちは、女性であったり子供であったり身体的に不自由な状況に置かれていたりと、殆どが弱い立場にあります。権力の中枢に据えられた人物のひとりであるスターク家の当主エダードすら例外ではありません。望んで手に入れたのではない重職の拝命が発端となり、やがて苦境に立たされることになります。
このように多彩な人物たちの弱い部分が率直に語られることによって、それぞれの描写も厚みと深みを備えたものとなり、かなりの人数が登場するにも関わらず、ひとりひとりを血肉を持った存在として感じさせ、彼らの悩みや苦しみをも読み手に切実に伝えて感情移入をしやすくさせている手腕は見事。複雑な人間関係も物語の濃密さを際立たせています。それだけに彼らを連れ去る死の容赦の無さにも凄みが増し、別れのつらさが身にしみてしまいますが。
権力者やそれ以外の人物が入り乱れる、多角的な視点での複雑な物語の先が読めないこともそうなのですが、物語の中に散りばめられた多くの謎も魅力のひとつとなっています。登場人物にまつわる謎は勿論、“壁”の向こう側はどうなっているのか、異形人たちやドラゴンの存在など、不可思議な存在があまり表に出てこないこの巻ですら気になってしかたがないことが多いので、この先も謎が明かされたりまた新たな謎が生まれたりと、おそらく息をつく間もないような展開が待ち受けているのでしょう。想像するだけでも先を読むのが楽しみで仕方がありません。
新旧の支配者や諸公たちの思惑が激しく行き交い、陰謀と裏切りと人々の血で彩られた七王国の権力争いの絵図は果たしてどのように描き換えられていくのか。
旧王家ターガリエンの血筋を受け継ぐ最後の姫君デーナリスと騎馬民族たち、スターク家の人々の動向などは特に気になるところです。
物語はまだまだ始まったばかりのようですので、最終巻までの長い道のりを追いかけて行きたいと思います。行き着く先は果てしなく遠そうですけれど……。







Comments