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2006.10.13

かかしと召し使い (フィリップ・プルマン)

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『かかしと召し使い』
フィリップ・プルマン 著 金原瑞人 訳 理論社 刊


「若者よ」かかしはいった。「ひとつ提案があるのだ。見たところ、正直でやる気のある若者のようだな。そして、このわたしは冒険心と才能あるかかしだ。そこで、どうだろう、わたしの召し使いにならないか」
「どんなことをすればいいんですか?」
「わたしとともに世界じゅうをまわるのだ。そして、使い走りをしたり、洗濯をしたり、料理をしたり、そのほかいろんなことで、わたしの役に立ってほしい。かわりに、わたしがあたえられるものは、わくわくぞくぞくする体験と名誉だけだ。ときに食べ物に不自由することはあるかもしれないが、冒険に不自由することは決してないだろう。さあ、若者よ。どうかね?」

(同書 P18より引用)


ひょんなことから命を持ったかかしと彼に仕えることになったジャック少年の冒険譚です。明記はされてませんけど舞台はイタリアでいいのかな。地名や人名がそれっぽいので。
生きたかかしが出てくるなんて、所詮は子供向けの話でしょう?と云うなかれ。そこはそれ、「ライラの冒険」シリーズを書いたフィリップ・プルマンの著作ですんで、児童書でもシニカルな視点を持ちつつユーモアに溢れた楽しい作品となっております。
頭がカブ(後にココナツ)な上に脳みそが豆一粒なので、かなり考えなしで相当おバカちゃんな、でも弱いものを見捨ててておけない騎士道精神に溢れる愛すべき性格であるかかし。そんなかかしの窮地を何度も何度も救う(笑)利発な少年ジャックのやりとりがもう最高なんです。
おバカな主人と賢い召し使いと云えば、P・G・ウッドハウスのジーヴスシリーズを思い出してしまいますが、それに「ピノキオ」とか「ドン・キホーテ」の要素を合わせたような感じと云ったら作品の雰囲気が少しは伝わるでしょうか。微妙に噛み合っていない(と云うより、かかしがジャックの話を全然身を入れて聞いていないのです。注意力散漫街道を爆進してますよかかし卿ってば……)ふたりの会話を読んでいるだけでもうおっかしくって!(笑)
勿論、冒険のエピソードも多彩で愉快。山賊を退治してみたり、俳優になって芝居に参加(乱入?)してみたり、将校になって戦場で果敢に戦ってみたり、無人島漂流で思いもかけない出会いがあったり、果ては毒殺(?)事件に巻き込まれたり、と短いながらも起こる事件は様々で飽きさせません。
特筆すべきはこのかかし、無口で上品なほうき嬢と恋に落ちてしまうんです。情熱的に求愛するシーンはなかなかロマンティックでちょっとうっとりでしたよ~。彼のロマンスは意外な結末を迎えるのですけれど、それは読んでのお楽しみってことで。
そして、冒頭からかかしを追う男チェルコレッリの存在が物語に謎と影とを落としていき、彼とかかしの関わりが明かされる13章以降は陰謀が渦巻いてハラハラしてしまいます。
かかしの持つ「内なる確信」の秘密とは?
スプリング谷は一体誰の手に渡るのか?
裁判で絶体絶命の大ピンチに陥ったかかしをジャックは果たして救えるのか?
謎が謎を呼ぶ展開はそれまでの呑気な空気とはうって変わってサスペンスに満ちております。結末が気になる方はどうぞ本を手に取ってみて下さい~。


なんともおかしな組み合わせのふたりですけれど、 たくさんの冒険を通じて次第に互いを大切な存在として認めあっていく姿には本当にほんわかと心が温まります。ラストの文章と読後感も素晴らしい!
ピーター・ベイリーの挿絵(この方の描く点目キャラクターはとてもラヴリーなんです)にも心和みます。見返しのデザインも可愛くて大好き。
ほのぼのとした優しい気持ちになりたい方と珍道中を見守りたい方(笑)にお薦めしたい作品です。


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