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2006.10.17

王狼たちの戦旗 氷と炎の歌2 (ジョージ・R・R・マーティン )

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『王狼たちの戦旗  氷と炎の歌2』上
ジョージ・R・R・マーティン 著 岡部宏之 訳 早川書房 刊


「騎士は君の願望だ。ウォーグはきみの正体だ。それを変えることはできないんだよ、ブラン。否定することもできないし、遠くに押しやることもできないんだ。きみは翼のある狼だ。しかし、決して飛ばないだろう」ジョジェンは立ち上がり、窓のところに来た。「この目を開かなければね」かれは二本の指でブランの額を強く押した。
 ブランはその部分に手を当てたが、なめらかな一続きの皮膚しか感じなかった。目なんかない。たとえ閉じたものでも。「ないものをどうして開けることができる?」
「指でその目を見つけることは決してできないよ、ブラン。心で探さなければね」ジョジェンは持ち前の不思議な緑色の目でブランの顔をじっと見た。「それとも、きみ、怖いのかい?」
「夢の中には人が恐れる必要のあるものは何もないと、マイスター・ルーウィンがいっている」
「あるんだ」ジョジェンはいった。
「何が?」
「過去。未来。真実」

(下巻 P56~57より引用)


赤い彗星が空に妖しい姿を見せ、七王国には長い冬が訪れようとしていた。
前王ロバート・バラシオン1世の死後、鉄の玉座は十三歳の少年王ジョフリーのものとなったが、彼の出自に疑惑を持つ叔父たちのスタンニスとレンリーもそれぞれ王の名乗りを挙げ、父エダード公の処刑後に北の地ウィンターフェルの領主の座を継いだロブ・スタークも“北の王”として蜂起し、南への進軍を始める。
4人の王が立つ王国の内部は混乱を極めるが、さらに海の彼方では古代王朝の末裔デーナリスが甦ったドラゴンたちと共に七王国を目指そうとしていた……。


すでにあらすじ部分で書いてしまってますが(汗)、前作『七王国の玉座』(→感想)のネタバレが入っています。
未読の方でこれから読もうという方は御注意をば。


群雄たちはそれぞれ覇を唱え、骨肉は相食み、諸公たちはおのおの権謀術数をめぐらせ、七王国は本格的な乱世を迎えます。バラシオン家もラニスター家も一枚岩でないのに加え、諸公たちの暗躍にも目が離せない状態なので、玉座の行方だけでも気になるのに、今回は新しい神“光の主”を奉じる赤い教団の司祭に黒魔術師や錬金術師などが登場し、禍々しく魔術的な雰囲気が醸し出されて予断を許さない展開になっていきます。
そして、前作で去っていった人物も少なくないのに今回もいちいち挙げるのが億劫になるくらいたくさんの人が命を落とします。多数の人物が登場する歴史群像劇では当然のこととは云え、なにしろ全然先が見えないので「次は一体誰が……?」と読み手の危機感を煽る手腕は流石ですよ。「この人はまだ大丈夫だろう」と思っていても、何章か後にはその予想(もしくは期待)は裏切られることになるのです。作者に踊らされっ放しで少々悔しくもありますけれど、面白いから文句ひとつ云えません(笑)。
読み進めるのにかなりの気力を必要とするのに読み始めると続きが気になってどんどん先を急いでしまうのは、構成の巧みさもさることながら、やはりエンタテインメントとしての語りが素晴らしいのでしょうね。陰謀が渦巻く前半部は比較的ゆっくりと読みましたが(そうでないと把握しきれないので)、物語が大きく動きだす後半部は睡眠時間を削って読んでしまいました。特にクライマックスの艦隊の激突と王都での攻防戦は物凄い迫力だったので、手に汗握る展開の決着を見届けないと!とがつがつ貪るようにしてページをめくっておりました。
前巻から提示されている謎に加えて新たな謎も増え、人物関係もより濃密で複雑になっていくもので、飽きさせないどころか正直続きが気になって堪らないです。この巻もまた気になるところで続いてますね。原書で追いかけてしまう方の気持ちもわかりますなぁ。

前巻でも思っておりましたが、エダード公の私生児ジョン・スノウ、同じくエダード公の息女アリアはそれぞれ主役を張れそうな波瀾万丈っぷりです。スターク家の奥方ケイトリンも乱世を聡明に生き抜く女性として大変魅力的に描かれていますが、この巻での彼女の章は非常に気になるところで終っています。うわーこの続きは一体どうなるんだ!!(悲鳴)
ターガリエン家のデーナリスも波瀾万丈っぷりでは負けていませんね。女傑ってタイプでないにも関わらず本当に人生が濃いですよこの人。古代王朝の血を引く最後の姫君で、流浪の身の上になってからは兄にさんざん搾取され、政略結婚させられたと思ったら前作のラストではとんでもないことになっちゃってましたし。彼女を主人公にするだけでも一本の長いシリーズ作品になりそうなのに、あくまで視点人物のひとりに過ぎないってところが凄いと云うか惜しげもないと云うか。大きな物語を創り上げながらも細部を緻密に織り上げていく著者の力量には感服しました。
新しい神“光の主”を始めとして、超自然的なものたちもその存在感を増していっています。
個人的に気になっているのがスターク家の次男ブランと関わりがある「緑視者(グリーンシーアー)」です。戦乱の中心部にあるパートは血腥く現実的な描写が多いのですが、ブランが視点の章では幻想的な雰囲気が漂い、物事の本質を見抜く神秘的な存在が見え隠れしていて、いよいよファンタジー的な部分も本格的に始動していくように思えるので、こちらの方にも大きく期待しています。

王位の行方には一応の決着がつきましたが、野望と造反を背景にして苦悩と困難を背負う登場人物たちの行く末はもう本当にどうなってしまうんでしょうか。実のところ楽しみな気持ちよりも先行きに対する不安の方が大きいですよ……。スターク家の人たちにはなるべく命を落とさないで欲しいんですけども!(切実に)


新たな語り手も加わり、ますます複雑にますます面白くなっていくこのシリーズ、続きは11月から三ヶ月連続刊行されるとのことです。
1巻目から最新巻までを連続して読める絶好のチャンスですので、未読の方はこの機会に是非!

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Comments

初めまして。
英語の勉強も兼ねて原書で読んでるんですが、1巻、2巻ともに分厚さに腱鞘炎起こし気味です。
3巻目のこちらのページ、ちょこっとだけ見せて頂きましたが、やっぱり読んでからにしようと思ってやめときました。
今ちょっと別の本に寄り道してますけど、やっぱり早急に3巻目に戻りたいと思います・・・。

Posted by: lazyMiki | 2007.08.13 at 12:50 AM

おお、lazyMikiさんは原書派なんですね。スバラシイ!
私は続きが知りたいあまりにペーパーバッグ版の4巻を購入しましたが、言語の壁が高過ぎて結局積読に成り果てています(苦笑)。
原書だと著者の言葉の使い方が如実にわかるので、翻訳とは違った楽しみ方が出来ると思います。
3巻目もますます目が離せない状況になっていきますので、物語のうねりにどうぞ翻弄されて下さいませ~。


Posted by: 羽鳥 | 2007.08.22 at 12:12 AM

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