剣嵐の大地1 氷と炎の歌3 (ジョージ・R・R・マーティン)
『剣嵐の大地1 氷と炎の歌3』
ジョージ・R・R・マーティン 著 岡部宏之 訳 早川書房 刊
「あなたは王たちに真実を話すこと決して恐れませんでした。なぜ、自分自身に嘘をいうのですか? 目を開きなさい、騎士さん」
「わたしに何を見せたいのだ?」
「世界が作られるさまを。真理はあなたのまわりに充満しています。見れば、はっきり見えます。夜は暗く、恐怖に満ちており、昼は明るく、希望に満ちています。片方は黒く、片方は白い。氷があり、炎がある。憎悪と愛が。苦渋と甘味が。男と女が。苦痛と快楽が。冬と夏が。悪と善が」彼女はかれに一歩近寄った。「死と生が。いたるところに反対物が。いたるところに戦争が」
(同書 P370より引用)
王都を震撼させたキングズランディングの決戦はジョフリー側の勝利に終わり、加えてティレル家のマージェリーとの婚姻での同盟によりジョフリーの王位とラニスター家の権力は確たるものとなった。ブラックウォーターの戦で瀕死の重傷を負ったティリオンは“王の手”の地位を奪われ、新たにその地位についた父タイウィン公から思いもかけない命を受ける。
一方、戦で数々の勝利を収めた北の王ロブ・スタークだったが、シオン・グレイジョイと鉄諸島人らにより領地ウィンターフェルを急襲され、弟たちブランとリコンを失い、さらには自らの行いで同盟者と多くの兵力を失うことになる。息子たちを襲った悲劇の報せを聞いたケイトリンは捕虜ジェイム・ラニスターに対してある決断を行う……。
1巻目『七王国の玉座』(→感想)、2巻目『王狼たちの戦旗』(→感想)の内容に触れていますので、未読の方は御注意下さい。
三箇月連続刊行の「氷と炎の歌」3巻目、3分冊の1巻目。まだまだ導入部といった感じで序破急で云えば「序」の部分かな。
ただ、このシリーズは起承転結ならぬ起承転転転転転転結で以下次巻といった趣があるので、読んでいてまんべんなくハラハラしてしまいます。別々の章の登場人物たちがすれ違っている点も面白さを際立たせていますね。
強風暴風疾風怒濤だった2巻目ラストを過ぎてこの巻では表面上は静かさを取り戻しておりますが、タイウィン公を始めとする深謀遠慮に長けた人物たちが幅を利かせている為に政治的状況は複雑さを増し、視点を持つ登場人物たちの殆どは非常に困難な立場にあります。波乱の種もあらゆる場所に巧妙に蒔かれている模様です。完結巻である3巻でこれらがどんな花を咲かせるのかが楽しみでもあり怖くもあり。
この巻で特筆すべきことは、新しい視点人物に王殺し(キングスレイヤー)のジェイム・ラニスターに夜警団(ナイツ・ウォッチ)のサムウェルが加わったことでしょうか。
ジェイムに関してはかなり受け入れにくいものであれ彼なりの理や、ある種の誠実さ(主にサーセイに対する)が示されたこともあって、全部とは云い切れないまでも『七王国の玉座』での悪印象が幾分やわらげられ、さらに視点人物となることによって読者としては彼の存在を多少受け入れ易くなっています。このあたりの匙加減も相変わらず見事ですね。
サムウェルの方では異形人との対決の緊張感がひしひしと伝わってきて、これまた見逃せないパートとなっています。2巻3巻でサムウェルがどのような成長を見せるのかにも密かに期待していますがどうなるのか……。
ほぼ一家離散状態になっているスターク家の面々は、ラニスター家の手の内にあるサンサ、逃亡中のアリア、そして政治的に上手く立ちまわれず失策を犯し八方塞がり状態のロブやケイトリン、それぞれが引き続き苛酷な状況に置かれています。著者は登場人物を等しく容赦無い運命の奔流に放り込んでいるのでしょうが、スターク家の人々には思い入れを持ってしまっているので、危難と隣り合わせにある彼らを見守るのはやはり消耗してしまいます。
野生人たちと行動を共にすることとなったジョン・スノウの陥っている状況もかなり気になりますね。彼の行動はどのような結果をもたらすのでしょうか。あれで何事も起こらない訳がないしなぁ……と不安がまたひとつ。
デーナリスのパートの方では七王国上陸に向けての準備が進められつつ、デーナリスとサー・ジョラーの関係にも変化が現れつつあるようで、こちらもますます見逃せない展開になりそうな。
先の合戦では敗北を喫したスタンニス側も、女司祭メリサンドルが何やら陰謀を巡らせているようで、サー・ダヴォスは彼女と手を結ぶことになるのかどうかも気になっております。
と、気になることばかりの展開で読み手に様々な不安を抱かせつつ、食いつきの良いところで以下次巻となっています。
来月の発売が切実に待ち遠しいです。



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