剣嵐の大地2 氷と炎の歌3 (ジョージ・R・R・マーティン)
『剣嵐の大地 2 氷と炎の歌3』
ジョージ・R.R.マーティン 著 岡部 宏之 訳 早川書房 刊
「ジエイム」ブリエンヌがささやいた。夢の中で聞いたと思われるほどかすかに。「ジェイム、何をしているの?」
「死にかけている」かれはささやき返した。
「だめ」彼女はいった。「だめよ、生きなくては」
かれは笑いたくなった。「おれに指図をするな、あまっ子。死にたいと思えば死ぬんだ」
「そんなに臆病者なの?」
この言葉はかれにショックを与えた。自分はジェイム・ラニスターであり、近衛騎士の一員であり、キングスレイヤーだ。いまだかつて、だれも自分を臆病者と呼んだやつはいない。そう、他の呼び方はした──破戒者、嘘つき、人殺しなどと。人々はかれを残酷で、不忠で、無責任だと呼んだ。しかし、臆病者とは決していわなかった。「死ぬ以外に、他に何ができる?」
(同書 P43より引用)
前巻までの内容に触れている箇所がありますので未読の方は御注意下さい。
「剣嵐の大地」全3巻のうちの2巻目。
前巻の内容に触れずにあらすじを書くことが不可能なので今回は省略致します。
1・2巻と読み進めてきたのだからわかっていても良さそうなものなのですが、このシリーズを読むに当たって登場人物たちに過剰な思い入れを持つことはいい加減やめておいた方がいいなというのが読後の率直な感想でしょうか。いやもう、この巻でのクライマックスでの目を覆いたくなるような凄惨な光景には凄まじいダメージを喰らいましたよ(号泣)。この作品への没入は大変危険であると云えましょう……。
情容赦の無い筆致が魅力の作品とは云え、常に読者の予想の上のそのまた上を行く苛酷さなので、去っていった人たちのことは勿論、残された人物の行く末を考えると暗澹たる気持ちになってしまいます。巻が進むにつれてどんどん辛さが増していっているような(落涙)。
しかも、思い入れを持つのをやめて読もうとしたところで、視点を持つ人物にはどうしたっていくらかは感情移入してしまうんですよね。『七王国の玉座』の時点では感情移入することなど不可能だと思っていたジェイムに対しても情が湧いてきてしまいました。ジェイムが「王殺し(キングスレイヤー)」の異名を取ることになった経緯には彼ばかりを責められない事情があり、ブリエンヌとのやりとりでは人間味のある部分もたくさん見せてもらいました。引用部分も印象に残っていますが、「お前の夢を見たんだよ」ってな台詞を吐くに到る過程の描写も良かったです。持って生まれた性格のせいか口は減らないんですが(笑)、憎めない部分もあるしなぁなどと思ってしまうのがすべて作者の術中に嵌った結果なのでしょう。
長い話を魅力のない人物を追いかけて読み進めるのは無理ですし、かと云って感情移入しすぎるとこっちが辛い……こんな風に悩みながら読むのも物語を楽しむ醍醐味のひとつなんでしょうか。だとすれば、その味はあまりに苦いものだと痛感せざるを得ません。
元から好感情を抱いていた人物には感情移入しっぱなしなのですけれど、スターク家の人々に関しては彼らが困難に直面する度に重苦しい気持ちになっておりました。戦乱の世の常とは云え、何もここまで悲惨な目に合わなくてもいいじゃないか!と云いたくもなってしまいます。
タマネギ騎士ことダヴォス・シーワースには『王狼たちの戦旗』から好感を持っていました。裏切りに満ちた七王国の中で愚直なまでに自分の立ち位置を貫こうとする彼のゆるぎのなさには周りの人々が怪しげなだけにいっそうの清々しさを感じます。「光の主」の信奉者が取り巻く王の側近中でその教義に疑いを差し挟むことができて、王の良心に訴えかける言葉を口にできる彼は忠臣と呼ばれるに相応しい人物なのですが、それ故に周囲からは孤立し、他の視点人物同様危うい立場に置かれています。そんなダヴォスがスタンニス王から賜るものは死かそれとも……という展開にもやっぱりハラハラしてしまいました。3巻目では一体どうなってしまうのか。
タイウィン公を中心とするラニスター家の勢力はますます強大になってはいますけれど、彼らがこのまま安泰である保障はどこにもありませんし、混乱の極みにあるスターク家やグレイジョイ家がこれからどうなるのかも気になります。印象的な人物が多いティレル家の巻き返しはあるのかどうかも楽しみなところです。ラニスター家に先手を打たれて黙っているような家風ではないように思えますので。
物語中の現在と過去の関わりも徐々に明かされつつ各パートの関わりもいよいよ緊密になり、『剣嵐の大地』の最終巻である3巻目はおそらく一冊まるごとクライマックス続きの展開で一気読みしてしまうと思われます。来月の刊行までに気力体力を充実させておかなくては。
正直、3巻まとめて読んだら体が持たなかったかもしれません。個人的には3ヶ月連続刊行で良かったかも。
相変わらず先は気になって堪らないのですが、3巻目の結末を知るのが恐ろしいような気もしております……。



Comments
いやーほんとですよね!
今この間を読み終わってあまりの切なさにネット放浪してました。
こんなにつらいことがあるとは!
もー現実生活にも影を落としそうな勢いのショックでございます。
でもやめられませぬ。次回が楽しみ
そうとみせかけて、、、という奇跡を祈りつつ。
Posted by: みみ | 2007.01.11 at 09:27 AM
コメント有難うございます。
3巻は現在手元にあるんですが、2巻がすっごい展開になってしまっているので最終巻を読むのが恐ろしいです……。一体どんな最後を迎えるんでしょうね。
そして次巻の翻訳は一体いつになるのかなぁ~。
なんにしても、これから先も楽しみです!
Posted by: 羽鳥 | 2007.01.12 at 11:46 PM