海駆ける騎士の伝説 (ダイアナ・ウィン・ジョーンズ)
『海駆ける騎士の伝説』
ダイアナ・ウィン・ジョーンズ 著 野口絵美 訳 徳間書店 刊
19世紀ヴィクトリア朝の英国。
クリスマスが間近に迫ったある夜、セシリアとアレックスの姉弟は中世の騎士のような時代錯誤の服装をした見知らぬ若い男の訪問を受ける。ずぶぬれで汚れた姿をしてはいるものの、彼の身なりは立派で物腰にも気品があった。ゲルンの伯爵ロバート・ハウフォース卿と名乗ったその男は犯していない殺人の罪で追われていると語る。セシリアとアレックスはロバートに一夜の宿を提供するのだが、彼は翌朝には姿を消していた。
そしてクリスマスイヴの前日、姉弟はふたたび不思議な出来事に遭遇する。
近くの島の上空から馬に乗った騎士が突然現れ、さらに彼を追うふたりの騎士たちが姿を現したのだ。追われている騎士はロバートだった。
ロバートを助けたいと思ったセシリアとアレックスは島へ向かい、そこでロバートを敵視する黒衣の少年と出会うのだが……。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズの邦訳新刊ですが、作品自体はデビュー前の1966年に書かれたものとのこと。
『ウィルキンスの歯と呪いの魔法』(→感想)の時のように、構成にあまり複雑さがないので身構えることなく読めました。『バビロンまでは何マイル』(→感想)あたりに比べると、何てストレートな設定なのだろうかと感動を覚えてみたり(笑)。
謎解きの部分は割合早く展開が読めるので、いつもの錯綜した伏線だらけの作品を期待するとちょっと肩すかしかもしれません。
それでも、ジョーンズ作品の特徴と云える点は既にいくつも備わっています。出発点からこうだったんだ~と感心してしまいました。癇癪持ちな人物が出てきたり、わかりやすい「良い子」がいなかったり、兄弟姉妹の関係が良くも悪くも密だったり、親子関係に幻想がないところもそうかな。昨日の敵は今日の友って訳でもないんでしょうが、はじめのうちは互いに良い感情を持っていなかった者同士が協力しあって苦境を乗り切るってあたりも後年の作品群に繋がっていくような気もします。あと、美男美女が出てくるところもそうだ! ジョーンズ作品と美形はやはり切っても切れない関係があるのか?
いつもは話の構成の複雑さについていくのが精一杯なので物語の背景となる部分にはあまり没入していなかったのですが、今回は舞台となった土地のイメージを味わいながら読めたのも嬉しかったです。
アレックス姉弟が住んでいるのは広い湾に面した丘の中腹にある家で、干潮の時には危険な流砂が現れるその湾に流れ込む川の河口近くには城の廃墟しかない岩だらけの島があります。まさに物語が始まるに相応しい雰囲気の場所でして、実際にそこが現実世界と異世界との境になるのです。大変魅力的な舞台設定なのですが、ふたつの世界の関わりの説明は明確にされていないんですよね。<外つ国人>の生死と大公たちの世界の存亡が関係しているのは何故なのか、異国の武器によって国が滅びると云う予言が意味することって?と疑問に思う部分がこの物語の中では解消されていないんです。
そのほか、ジョフリー善良公とエレノア・ド・コーシーの駆け落ち話や、エレノアが生きていた時代から五百年たってもなお人々に愛される理由、さすらいの魔術師にして予言者で語り部のアーロン(アーサー王伝説のマーリンをイメージさせます)の存在とか、スズメバチ騎士団にも面白いエピソードがありそうですし。
おそらくは同じ土地を舞台にした他の物語でこれらの謎が語られる筈だったのでしょう。これらの伏線が解消されないままで物語が閉じられてしまったのは残念だなと思ってしまいましたが、この話自体を読むにあたっての本筋ではないので仕方がないんでしょうな。
少年大公エヴァラードとアレックス、そしてアレックスとハリーとスザンナのコーシー兄妹との関係が変化していく所や、セシリアの選択の数々などは楽しく読めましたし、読後感も良い作品でした。
アレックスやエヴァラード、セシリアたちのその後を知りたいなとも思いますけれど、この話はここで終るからこそ余韻が残っていいのかもしれませんね。
難癖もつけましたけれど好きなタイプの話です。
あまり込み入った話ではないので、ジョーンズ作品を読み慣れない方にはお薦めかな。



Comments