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2007.02.28

白い果実(ジェフリー・フォード)

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『白い果実』
ジェフリー・フォード 著 山尾悠子・金原瑞人・谷垣暁美 訳 国書刊行会 刊


「──閣下、地上の楽園とはこの広大な世界の中にただひとつ存在する、自然が全く誤りを犯さなかった小さな場所です。それは神が生きながら埋められる前に創造した、最後にして最高の作品です。それは全ての罪と全ての栄光を受け入れ、それらを少しずつ永遠に変えていく場所です」
(同書 P55より引用)


独裁者ドラクトン・ビロウの脳内で構築されたイメージを具現化した理想形態都市(ウェルビルトシティ)では、人間の容貌からその本質を見抜く観相学を修めた者に権力が与えられる。
一級観相官であるクレイは、ビロウから北方の属領(テリトリー)アナマソビアで起こった<白い果実>の盗難事件の調査を命じられる。それはこの世の楽園で実り、その果実を食べた者は永遠の命を得ると云われているものだった。
犯人を見つけ出すのは簡単なように思われたが、クレイはあることがきっかけで観相学の能力と知識を全て失くし窮地に陥る。己の保身の為に能力の喪失を隠した彼は、現地で助手として雇った鉱夫の孫娘アーラに捜査を託さざるを得なくなってしまう。
独学で観相学を修めたアーラは果実を盗んだ犯人を見抜くのだが……。


主人公のクレイは登場時点では独裁者の側にいる人物なので、かなり傲慢で鼻持ちならない人物なのですが、境遇が激変した途端に善意の人物のように描かれたのには違和感がありました。理想形態都市(ウェルビルトシティ)でビロウの影響を強く受けていたせいで、都市においては本来のひととなりとは違った人物にならざるを得なくなってしまったのだとは思いますけれど、彼の変化は些か唐突なような気がします。
などと少しばかり引っ掛かる点はあったものの、著者の得意とする幻想的な雰囲気は素晴しかったです。
独裁者の考えた都市が現実となった理想形態都市(ウェルビルトシティ)とそれを支える属領(テリトリー)、美薬と云う名を持つ麻薬が紡ぎ出す悪夢めいた幻覚、<甘き薔薇色の耳(ローズ・イアー・スイート)>という名の酒がもたらす酩酊感、それを食したものは不死身になれると云われている果実の行方、辺境の教会に祀られる<旅人>の木乃伊、鉱物化していく鉱夫たち、硫黄採掘場の囚人となったクレイの昼と夜それぞれを監視する双子のマターズ伍長、アーラが祖父から聞いた探検の話をまとめた『この世の楽園への不思議な旅の断片』での緑人モイサックと鉱夫ビ-トンの物語、偽楽園を封じ込めた<孵化しようとしている卵>。
謎めいて奇妙なイメージ群が作中の現実と結ばれていく過程が著者ならではの筆で綴られ、主人公クレイの立場も二転三転し、独裁者であるビロウとの関係もその都度変化していきます。
硬質な手ごたえの幻想文学を想像していましたが、とにかく先を知りたくなってしまうエンタテインメント性が充分に備わっているので、設定から受ける印象とは違ってとっつきにくさのようなものは感じませんでした。実はもっと小難しい感じかと思い込んでいて、かなり読みやすかったことに逆に驚いたくらいです。
ラストはちょっと肩すかしと云うか物足りなさを感じたのですが、三部作の一冊目である以上は仕方のないことでしょうね。これから先の展開でクレイを待ち受けているのは何か、ビロウはどうなっているのか、観相学の持つ意味は、そしてアーラの残した謎は……と物語の続きへの興味は尽きません。続く『記憶の書』はこの物語の8年後から始まるそうで、またしても奇妙なイメージが溢れる世界が語られることになるのでしょう。

『シャルビューク夫人の肖像』(→感想)でもそうでしたが、フォードの描く女性は謎を抱えている故に非常に魅力的です。こういった風に女性を描けるのは著者が常に女性に対する尽きせぬ謎を感じているからなのだろうかと考えてみたり。


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2007.02.21

チャリオンの影 (ロイス・マクマスター・ビジョルド)

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『チャリオンの影』上
ロイス・マクマスター・ビジョルド 著 鍛冶靖子 訳 創元推理文庫 刊

戦の果てに奴隷として酷使された生活から解放され、精神的にも肉体的にも疲弊したカザリルはやっとの思いで故国チャリオンへと帰り着く。
以前小姓として仕えていたバオシアの藩妃を頼ったカザリルは、藩妃の孫娘でありチャリオン国主オリコの妹イセーレの教育係兼家令の仕事を任される。知性と活発さを合わせ持つイセーレは今までに何人もの教師を追い出していたのだが、カザリルの力量を認め、次第に彼を信頼していく。
自分の仕事に満足する間もなく、イセーレと弟テイデス国子の元に国主である異母兄から宮廷への招きの報せが届き、カザリルも共に都へと向かう。そこでは国主は飾りに過ぎず、政治の実権はジロナル宰相とその弟に握られており、自分たちの権力をさらに強大にしようと目論む兄弟は国姫イセーレを掌中に収めようとしていた。
ジロナル兄弟の陰謀を阻もうとしたカザリルは神の恩寵と魔の呪いを同時に受ける身となり、チャリオン王家を取り巻く呪詛に関わることになるのだが……。


主人公カザリルは尾羽打ち枯らして戦から帰還した35歳の元騎士。
奴隷生活のせいで肉体的には勿論精神的にもかなりのダメージを受けた為、登場時点ではかなりくたびれた感はございますが、実はこの人思慮深くて有能で高潔なんですよね。 元気と才気を有り余らせているお姫様の教育係の責務は名実共にきちんとこなしているし、自分の能力をひけらかさない謙虚さのせいで声高には語らないんですけれど、親友パリアル郡侯によれば過去の仕事振りもなかなかのものだった様子。それなのに控えめを通り越して些か卑屈寄りの低い自己評価になってしまうのは苛酷な奴隷生活のせいなのでしょう。痛ましいなぁ。
しかし、こういった人物って脇に回って控えめながらも存在感を発揮するタイプと云う気がするので、主役を張るのって結構珍しいのではなかろうかと感じました。
そんな彼を中心に、頭の回転の速さに見合った分だけ無茶もやらかす大変に行動的な16歳の姫君イセーレ(作中での成長振りは素晴しいです!)、彼女の腹心の友にして女官のベトリスの存在が物語に華やかさを出しています。19歳のベトリスはカザリルの想い人でもあるのですが、彼は年の差と自信の無さから想いを伝えることをためらっています。そのあたりの及び腰な部分がもどかしいながらも読む楽しみのひとつかもしれません。

登場人物たちは勿論なのですが、何と云っても舞台となるチャリオンを中心としたイブラ半島の三国(チャリオン、イブラ、ブラジャル)で信仰されている五神教の設定が魅力的です。
姫神、母神、御子神、父神、庶子神の五柱の神々にはそれぞれの役割があり、作中の儀式の中でその一端が見られるこれらの信仰は人々の生活に密着しています。神学的な部分をもっと知りたくなってしまうほど興味深いものでした。
神々は人間を通じてしか人の世に介入できませんが、神の力を得たからと云って何もかも上手く行くようでは人間たちの物語として面白くありません。今回の主役たるカザリルも神々の力に振り回されながら、その中で意志的に動いていく姿に思わず声援を送りたくなってしまいます。でも、神々の手に触れられた人々の姿を見ていると、大いなる存在の祝福ってのは小さき存在である人の身には持て余すようなものなんではないかとも考えてしまいますねぇ……。

彼の健闘と奮闘は果たしてイセーレとチャリオンを救えるのか、そして恋の行方は?と色々やきもきさせられながら、最後の最後までハラハラドキドキを楽しませてくれるサーヴィスの良い作品です。
この話はここで綺麗にまとまってはおりますが、続刊は本作から三年後を舞台としてイセーレ姫の母君イスタ様をメインにしたお話になるのだとのことなので非常に楽しみです!
今回の登場人物たちを取り巻く状況はどのように変化しているのでしょう。
あと、ダリスの物語は語られることがあるのでしょうか。彼とウメガトの過去についても色々知りたいです。


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2007.02.17

天王船 (宇月原晴明)

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『天王船』
宇月原晴明 著 中公文庫 刊


『黎明に叛くもの』の外伝をまとめた短篇集。
もともとは分冊ノベルズ版に収録されていた書き下ろし作品だそうですが、戦国時代に関する基本的な知識があれば『黎明に叛くもの』を読んでいなくても伝奇的な戦国時代物として楽しめるかと思います。著者の作品の持つ戦国と奇想と神器と云うエッセンスが凝縮されているので入門篇としても宜しいかもしれません。

収録作品は以下の4篇。
松永久七郎が身を置く集団での彼の初仕事とその報酬を「東方見聞録」と絡めた「隠岐黒」。
津島天王社の華麗な祭礼を舞台として松永久秀と信長の一時の邂逅を鮮やかに描いた「天王船」。
本能寺の変の直後、秀吉が行った「中国大返し」の成功の裏にあったものとその密かな協力者の物語「神器導く」。
マルコ・ポーロが死の間際に残したもうひとつの「東方見聞録」である「波山の街──『東方見聞録』異聞」。
どの作品も歴史の裏にあったかもしれない出来事を夢幻的に描いた佳品ですが、一番印象に残ったのは最後に収録されている作品、死の際にあるマルコ・ポーロが友人ルスティケロに宛てた書簡と『東方の一見聞録』の追記の形を取った「波山の街──『東方見聞録』異聞」でした。
二度目の元寇である弘安の役直後の1182年、福州のはずれにある「波山(ハサン)の街」で信仰されているイスラム教でもなく仏教でもなく景教でもない謎の宗教を探る為に、彼の地へ調査に乗り出したマルコ・ポーロが見、そして体験した出来事が語られます。
マルコに仕えるジパング贔屓の奇妙な老人「ジパーノ爺さん」、波山の街の中心人物の果心(カシム)、タタール帝国の支配者クビライ・カーン、ヴェネツィアの商人マルコ。それぞれが持つ背景とキリスト教の正統と異端の信仰、真紅の罌粟と宝石と黒檀架に銀鎖で縛められた黄金の髪の人形。クライマックスであるクビライの行幸においてそれらは血腥く激しく煌びやかな戦いへと収束し、マルコの旅立ちと共に物語は閉じられることになります。
短篇ではありますが、様々な文化を取り込みながら歴史を再構成していく著者の手腕が見事に発揮されている作品で、文庫の80ページに満たない分量だとは信じられない満足感がありました。


著者の他作品をより深く味わう為に楽しめる作品集ですが、真実と虚構を巧みに織り交ぜた歴史ものをお読みになりたい方にもお薦めです。


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2007.02.14

霊応ゲーム (パトリック・レドモンド)

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『霊応ゲーム』
パトリック・レドモンド 著 広瀬順弘 訳 早川書房 刊

1999年、ロンドン。
45年前に起きた「カークストン・アベイ事件」の謎を追っている野心家のジャーナリストのティムは、ひとりの男を招いていた。事件の当事者だったその男はティムの説得に促されるようにして事件の全貌を語り始める。

1954年、ノーフォーク。
全寮制のパブリック・スクール、カークストン・アベイ校の4年生ジョナサン・パーマーは同級生のジェームズやラテン語教師のアッカーリーから執拗ないじめを受けていた。
そんな彼の窮地を救ったのが周囲から孤立しながらも優秀な生徒のリチャードだった。リチャードに心酔したジョナサンは彼との友情を結んだが、リチャードを自分の仲間に引き入れようとしていたジェームズは、ジョナサンに対してのいじめをより苛酷なものにしていく。
そして、リチャードとジョナサンが親密になるにつれて学園内では次々に奇怪で悲惨な事件が起き、生徒や教師たちが犠牲になっていく……。

登場人物のそれぞれが持つ暗部を緻密にえぐっていく為、読めば読むほど陰鬱~な気持ちになるんですが、続きが気になってたまらないのでページをめくらずにはいられないと云う二重の意味で厭な本でございました(苦笑)。事件の関係者の殆どすべてが悲惨な目にあっているのがもう読んでいていたたまれせんでしたし。いじめに関わっている人物たちは勿論ですが、切迫している状況を何とかしようと奮闘する善意の人々も等しく事件の渦中に放り込まれてしまいます。しかも人間心理の黒々した部分を見せつけられて毒気に当てられてしまいましたよ……。
友情で始まった筈のリチャードとジョナサンの関係は、ふたりが始めた「ゲーム」によって束縛する者とされる者へ変わっていきます。リチャードの影響力は次第にジョナサンをがんじがらめにしていくのですが、ジョナサンはリチャードから逃れることができるのかというサスペンスを追いつつ、リチャードの両親にまつわる秘密、ジョナサンが慕っていた上級生ポールの死の理由、アッカーリー夫妻の間に影を落とす過去、ハワード校長の隠し事、冒頭のティムのパートで少しだけ触れられていた「証人の二人の少年」は関係者のうちで誰と誰なのか(ひとりについては予想通りでしたがもうひとりははずれました)、と様々な謎が散りばめられているので情容赦無い筆致に震え上がりながらも構成の巧妙さと語りの魅力に引きずられて二日で読了してしまいました。最後のひとひねりも見事!

生徒たちを中心にして教師をはじめとする大人たちの視点も入れつつ多面的に学校生活を描いた作品で、サスペンスとホラーが巧みに融合している作品でもあるので、閉塞した環境で人が追い詰められていく過程を垣間見てみたい方は是非どうぞ。
ただし後味は非常に悪いんでお覚悟をば。


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2007.02.06

アナンシの血脈 (ニール・ゲイマン)

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『アナンシの血脈』上
ニール・ゲイマン 著 金原瑞人 訳 角川書店 刊


 ほとんど何でもそうだけれど、これもやっぱり歌ではじまった。
 聖書にもあるように、まず言葉があった、というわけで、その言葉はメロディーにのってやってきた。こうして世界は生まれ、空が分かたれ、大地が、星が、夢が、小さな神々が、動物が生まれた。
 みんな歌をもらった。
 強い動物が歌をもらってこの世にあらわれた。しかしその前の歌い手は、惑星や、丘や、木々や、海や、弱い動物の歌を歌い終えていた。存在のはじまりにあたる崖の歌が歌われ、狩り場の歌、そして闇の歌が歌われた。
 歌は残る。ずっとつづく。皇帝をけちな道化にしたり、王朝を終らせることだってできる。歌は、ある出来事が終ってからもつづく。関わった人々が、ちりとなり、夢となり、消えてしまってからも。それが歌の力だ。

(同書 P5~6より引用)


チャーリー・ナンシーは昔から父親に悩まされていた。とにかく父親に関わる思い出はろくでもないものばかり。女好きで女性からも好かれ、ちょっとしたものから手の込んだものまでいたずらで人をからかうのが大好き、死に瀕していた母親の元にジャズバンドを連れて現れる非常識さまで持ち合わせているような人物なのだ。できれば関わりあいたくないチャーリーの気持ちをよそに、婚約者のロージーは是非結婚式に招待したいと主張する。居所のわからない父親と連絡を取ろうと両親の旧友ミセス・ヒグラーに電話をかけたチャーリーは、彼女の口から父親が死んだことを聞かされる。
父親の葬儀に出席する為にロンドンからフロリダに飛んだチャーリーは、葬式の後にミセス・ヒグラーからとんでもない事実を告げられる。「あんたの父さんは、神さまだったんだ」と。おまけに今までその存在すら知らなかったきょうだいまでいるというのだ。
そして、「彼に会いたいならクモにそう伝えるといい」とのミセス・ヒグラーの言葉に酒を飲んだ勢いで半信半疑ながら従ったチャーリーのもとに、神の血を多く受け継いだきょうだいスパイダーが現れたことから、平凡ながらも平和だったチャーリーの生活は一変してしまう……。

アナンシというのは西アフリカの神話に出てくるクモの神のことだそうです。
アフリカ神話に馴染みがないものでこの神については知らなかったのですが、訳者あとがきによれば、「クモでありクモ男であり神様でもある」そうで、トリックスターとしての役割を持っているとのこと。
その血を受け継いだふたりの息子たち、チャーリーとスパイダーが出会ったことで始まるのがこの物語。父と子の関係にふたりの青年の成長、サスペンスとロマンスと異世界での冒険がまとまった作品と云ったところでしょうか。
なんとなく呪術的なおどろおどろしい雰囲気を予想していたのですけれど、アナンシという神がタイトルに鎮座しているせいなのか、不気味な部分がありながらも思った以上にユーモラスな話でした。個人的には神話的な部分にはもうちょっと重厚さが欲しいようにも感じましたが、アナンシの持つ軽やかさが物語にも反映されていたってことで、こういう雰囲気の物語になったんでしょうね。
会話が多くて話のテンポも速いのでさくさくと読めて(これは訳文の読みやすさも一役買っていると思います)、映像的な文章なので映画やドラマにしても面白そう。
いまちぱっとしないと云うか冴えない感じのチャーリーと、神の血のおかげで何に関しても不自由がなく気ままな暮らしを楽しんでいるスパイダー。この正反対のふたりと彼らの関係の変化を軸として物語は進んでいくのですが、歌(あるいは物語)が世界を構築する要素だと語る神話(民話)的な部分が現代社会のパートに組み込まれていって互いが結ばれていく手法が巧みで、現代で起きる横領事件と殺人事件、チャーリーと鳥女の契約とそこに隠された罠とが絡み合い、ふたつ世界の関わりはこれからどうなっていくんだろう?とどんどんページをめくらされてしまう語りはお見事でした。ただ、対照的な「きょうだい」であるチャーリーとスパイダーをはじめとして、キャラクターの役割分担が割合はっきりしている為か、そういった面での意外さや驚きは少なかったようにも思えます。特にグレアム・コーツの造形はちょっと物足りなかったかな。
リヴィングストン夫人ことメイヴの活躍は予想外でしたが(笑)。あの立場にあってあそこまでの気概を見せるってのは、若い頃もさぞかし魅力的だったのでしょうなぁ……。

まぁ、何だかんだ云ってちゃっかり美味しいところを持っていっているのはアナンシだなぁと感じました。やっぱりトリックスターを中心に据えた物語なんですねぇ。
はじめのほうに出てくる大統領の話と人魚を探すエピソードがラストシーンで変奏のように使われていて、父子の関係を印象深いものにしていました。読後感も良かったです。


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2007.02.02

最後のウィネベーゴ (コニー・ウィリス)

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『最後のウィネベーゴ』
コニー・ウィリス著 大森望 編訳 河出書房新社 刊


ウィリス作品の特長であるコメディと泣かせのテクニックとが一冊で堪能出来る短篇集。
表題作以外はコメディ風味が多め。


「女王様でも」
本書中で一番短くて風刺の利いた作品。
凄くいいなぁ、この作品中の世界~!(羨)と読みながら思っていた私はサイクリストの皆様の気持ちに全く共感できませんでした(笑)。いやもう半年分くらいなら御希望の方にいつでも無料で進呈しますよホントに……。

「タイムアウト」
画期的(?)なタイムトラベル実験をめぐる男女の恋愛劇。
基本的にはSFなのに、生活感たっぷりの描写でそうは思えないところが面白いです。

「スパイス・ポグロム」
住宅事情がすこぶる悪いスペースコロニー内のアパートメントで起こるロマンスコメディ(?)。
エイリアンとの異文化コミュニケーションに、誤解と嘘と行き違いとトラブル、やたら賑やかで自己主張の激しい住民たちと笑わせ所が満載です。ロマンスの主役たるふたりがいいムードになると邪魔が入るあたりなんてはっきり云ってお決まりのパターンなんですけど(笑)、ちゃんと面白いのが凄いですな。ヒロインの危機は思いもかけない形で救われて、最後は勿論ハッピーエンドですよ~。
ミスター・オオギヒフォエエンナヒグレエ(もしくはミスター・オーキフェノーキ)ってば、なかなか粋なことをやってのけますね!

「最後のウィネベーゴ」
滅んでしまったものと滅びつつあるもの、そして罪と赦しと小さな奇蹟を描いた佳品。
読み始めてしばらくは状況がさっぱりつかめないし、作中の現在と語り手の回想が混じり合っているので混乱しながら読み進めていましたが、小道具とエピソードのひとつひとつが無駄なく繋がってラストに到る手腕が流石です。よくもまあ、ここまで綺麗にまとめられるものだ!と感心しましたよ。
犬好きの方は人目のある場所でP356以降を読まないほうが良いかもしれません。私は帰宅途中のバスの中で読んでいて泣きそうになりました……。


ウィリス作品のエッセンスが詰め込まれているので、入門篇として宜しいかもしれません(個人的には長篇の方が好きなんですが)。 お気に召しましたら、是非長篇にもチャレンジして下さいませ!


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