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2007.02.17

天王船 (宇月原晴明)

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『天王船』
宇月原晴明 著 中公文庫 刊


『黎明に叛くもの』の外伝をまとめた短篇集。
もともとは分冊ノベルズ版に収録されていた書き下ろし作品だそうですが、戦国時代に関する基本的な知識があれば『黎明に叛くもの』を読んでいなくても伝奇的な戦国時代物として楽しめるかと思います。著者の作品の持つ戦国と奇想と神器と云うエッセンスが凝縮されているので入門篇としても宜しいかもしれません。

収録作品は以下の4篇。
松永久七郎が身を置く集団での彼の初仕事とその報酬を「東方見聞録」と絡めた「隠岐黒」。
津島天王社の華麗な祭礼を舞台として松永久秀と信長の一時の邂逅を鮮やかに描いた「天王船」。
本能寺の変の直後、秀吉が行った「中国大返し」の成功の裏にあったものとその密かな協力者の物語「神器導く」。
マルコ・ポーロが死の間際に残したもうひとつの「東方見聞録」である「波山の街──『東方見聞録』異聞」。
どの作品も歴史の裏にあったかもしれない出来事を夢幻的に描いた佳品ですが、一番印象に残ったのは最後に収録されている作品、死の際にあるマルコ・ポーロが友人ルスティケロに宛てた書簡と『東方の一見聞録』の追記の形を取った「波山の街──『東方見聞録』異聞」でした。
二度目の元寇である弘安の役直後の1182年、福州のはずれにある「波山(ハサン)の街」で信仰されているイスラム教でもなく仏教でもなく景教でもない謎の宗教を探る為に、彼の地へ調査に乗り出したマルコ・ポーロが見、そして体験した出来事が語られます。
マルコに仕えるジパング贔屓の奇妙な老人「ジパーノ爺さん」、波山の街の中心人物の果心(カシム)、タタール帝国の支配者クビライ・カーン、ヴェネツィアの商人マルコ。それぞれが持つ背景とキリスト教の正統と異端の信仰、真紅の罌粟と宝石と黒檀架に銀鎖で縛められた黄金の髪の人形。クライマックスであるクビライの行幸においてそれらは血腥く激しく煌びやかな戦いへと収束し、マルコの旅立ちと共に物語は閉じられることになります。
短篇ではありますが、様々な文化を取り込みながら歴史を再構成していく著者の手腕が見事に発揮されている作品で、文庫の80ページに満たない分量だとは信じられない満足感がありました。


著者の他作品をより深く味わう為に楽しめる作品集ですが、真実と虚構を巧みに織り交ぜた歴史ものをお読みになりたい方にもお薦めです。


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