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2007.04.20

神を見た犬 (ディーノ・ブッツァーティ)

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『神を見た犬』
ディーノ・ブッツァーティ 著 関口英子 訳 光文社古典新訳文庫 刊


「カフカの再来」と云われたイタリアの作家の短篇集です。
収録作品は以下の通り。


「天地創造」
「コロンブレ」
「アインシュタインとの約束」
「戦の歌」
「七階」
「聖人たち」
「グランドホテルの廊下」
「神を見た犬 」
「風船 」
「護送大隊襲撃」
「呪われた背広」
「一九八〇年の教訓 」
「秘密兵器 」
「小さな暴君」
「天国からの脱落」
「わずらわしい男」
「病院というところ」
「驕らぬ心」
「クリスマスの物語」
「マジシャン」
「戦艦《死》」
「この世の終わり」


不条理なところは確かにカフカっぽくもありますが、カルヴィーノの作風にも似ているような気がします。イタリアと云うお国柄から軽妙なユーモアとアイロニーを含む雰囲気の作品が生まれるのかな?とも思うのですけれど、イタリア文学に詳しくないので見当違いかもしれません(汗)。

翻訳が読みやすくて初めての作家の割には気負わずすいすいと読めてしまいました。
不条理系の作品や風刺の効いたユーモアのある作品や人に対する温かみを感じさせる作品など、ヴァラエティに富んだ作風の作家だったようですね。
登場する神様や聖人様が人間臭くて親しみやすいのが楽しく、読んでいてほのぼのしてしまいました。
「天地創造」のうとましくもしぶとい天使と彼の提案に誘惑を感じてしまう神。
「聖人たち」に出てくる新米聖人で自分の存在意義について悩む聖ガンチッロ。
「風船」で下界の幸福と悲しみを眺める聖オネートと聖セグレタリオ。
「天国からの脱落」で、新しい道を踏み出す聖エルモジュネ。
「わずらわしい男」にわずらわされる聖ジェロラモ。
天国にいるのがこんな存在ばかりであるならば、彼らに会いに天国へ行ってみたいという気持ちになってしまいます(行けるかどうかはまた別の話として・笑)。
キリスト教絡みの人情話である「驕らぬ心」と「クリスマスの物語」も泣かせのテクニックが巧みな作品でした。
表題作の「神を見た犬」で描かれる象徴性、「戦の歌」 や「戦艦《死》」 の根底にある破滅と隣り合わせの不条理感、追われる緊張感と最後に齎される幻想性が心憎い「コロンブレ」。非常に怖かったのは「七階」という作品。 淡白に丁寧に順を追っていく様子に厭な気持ちが呼び起こされるので間違っても入院中には絶対に読みたくないです……。

文庫一冊の中に収められているのが不思議なほどの一篇一篇の豊富な着想には感心してしまいます。
短いながらも鮮やかな印象を残す話を読んでみたい方にはお薦め。


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2007.04.19

天と地の守り人 第三部 (上橋菜穂子)

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『天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編』
上橋 菜穂子 著 偕成社 刊


勿体無いと思いながらも勢いがついてしまって三冊目も読了。
ヒュウゴがバルサに托し、バルサからチャグムへと渡された「種」はどのように花開くのか、天と地のそれぞれを行くふたりの天子の選択の行方は、そしてチャグムが選んだ苛酷で困難な道がどこへ続いていくのかは本文を読んで確かめて戴きたいと思います。
この三部作は大地に根を張って生きていく人々が繰り広げる群像劇としてもずいぶん楽しませてもらいました。
個人的にはどうしてもチャグム側に肩入れしながら読んでしまう為、ラウル王子に関しては言葉は悪いんですが敵認定のような気持ちになりがちでした(公平な視点でないのは自覚しています)。
しかし、第二部でタルシュについても細かい言及があり、それを受ける形でこの巻の序章でもタルシュ内部のエピソードが語られていたので、かの国に対する興味がますます増してしまいました。主人公側は勿論、敵方をも魅力的に描いてしまう著者の力量は流石です。
オーラハン皇帝とアイオルの物語が読みたいとは前の記事でも書きましたが、ラウル王子の今後も気になります。 タルシュ帝国はこれからどうなっていくのでしょう。
あとはヒュウゴとソドクの過去話も読みたいです。このふたりのつながりにはもう興味津々ですよ。
シハナについてももうちょっと……とか云ってるとキリがないんですが、それだけこの世界に入れ込んでいたので御勘弁をば(笑)。
呪術的な部分と異世界ナユグ(特に「虹の宮殿」の場面が凄かった!)についても堪能させて戴きました。素晴らしい物語の語り手が鮮やかに紡ぎだす異世界の存在感と視覚的イメージは圧巻でした。


登場人物たちのそれぞれが選んだ道が複雑に絡み合って迎えた結末は、ひとつ大きな流れの終りであり新しい流れへの始まりでもあります。この先のことについても気になることは多々ありますけれど、今は余韻に浸っていたいと思います。 数年かけて追いかけてきた物語の完結に立ち会えることは読者として本当に幸せなことなのですね。
願わくは、著者の心の中に<物語の種>がまた降ってきてくれますように。
まぁ、上橋さんは<物語の種>がみっしり詰まったたくさんの引き出しをお持ちなのだとは思いますが。

次回作も楽しみにしております。


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2007.04.18

天と地の守り人 第ニ部 (上橋菜穂子)

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『天と地の守り人 第二部 カンバル王国編』
上橋 菜穂子 著 偕成社 刊

 日が、雲間から顔をだし、すぐにまた、かくれていく。チャグムのこわばった横顔をみながら、バルサは、しずかな声でいった。
「みごとなホイ(捨て荷)だったね。」
 チャグムは一瞬、いぶかしげな顔でバルサをみたが、すぐに、なにをいわれたのか、理解した色が、目にあらわれた。
 けわしくこわばっていたチャグムの顔に、ゆっくりと苦笑が浮かぶのを、バルサは、ほほえんでみつめていた。

(同書 P283~284より引用)


完結篇2冊目の舞台はカンバル王国へ。
序章のティティ・ラン<オコジョを駆る狩人>たちの登場シーンを読んで、無性に『闇の守り人』を読み返したくなってしまいました。
もともとシリーズの中で不思議の色彩が一番濃いと思っている『闇の守り人』が大好きなのもありますけれど、この巻で懐かしい人(以外のものたちもですね)や場所に対して言及があったものですから。カッサも立派になりましたね。
そんな感慨はさておき、ナユグ(ノユーク)が迎えた「春」がサグに与える変化とその影響、タルシュ帝国の侵攻が進む中でのロタ・カンバル・新ヨゴの情勢の緊迫感、それぞれの国の内部の思惑や苦渋の選択、バルサとチャグムが辿る苦難の道などなど、読み応えがたっぷりでした。当然と云えば当然なのですが、 読んでいるこちらがハラハラしてしまうほど御都合主義が皆無なのも凄かったです。流石!
登場人物たちの中にある「故郷」のかたちの描き方も印象深いものがありました。

一章に出てくるホイ(捨て荷)のエピソードの利かせ方は物凄く良かったのですが、読んでいて胸がいっぱいになったのは「アラム・ライ・ラ」の方でした。これに関わる最初のシーンと最後のシーンの対応のさせ方が心憎くて!
ラストシーンでは最終巻を前にして色々こみ上げてきてしまいました。
あと残り1冊なので激しく名残り惜しいのですが、この引きでは続けて読まずにはいられませんよもう。


本篇とは直接関係ありませんが、タルシュ皇帝と<太陽宰相>アイオルの若き日の物語は読んでみたいと思いました。タルシュを強大な帝国に築きあげたこのふたりが分かち合ってきた四十年間のことを知りたいです。
外伝として一冊にまとめて下さらないかしら。

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2007.04.17

天と地の守り人 第一部 (上橋菜穂子)

天と地の守り人〈第1部〉 画像クリックでamazonmへ

『天と地の守り人 第一部 ロタ王国編』
上橋菜穂子 著 偕成社 刊

「殺してほしいなら、やってやろう。──そうでないなら、自分の負債を他人にあずけるような真似は、やめな。」
(同書 P194より引用)


夜の海に飛び込み行方知れずとなった皇太子チャグムを探す女用心棒バルサは、彼の残した軌跡を辿り単身ロタ王国へ向かう途中で、奇妙な男と出会う。
タルシュ帝国の侵攻が間近に迫る新ヨゴ皇国では、帝の言葉により評定衆の殆どが滅びへの道を進むことを選ぶ。その中で星読博士シュガはある決意を固めるのだが……。


最終巻だし勿体無いからとしばらく寝かせておいたのですが、読みたい気持ちが高まってきたので三巻分を一気読み開始。
情報量が多いのでいつもより読むのに時間がかかったものの、読み始めるとどんどん読んでしまいました。やっぱり面白いですね!
前作『蒼路の旅人』からの流れで、新ヨゴ皇国が置かれた非常に危うい立場とタルシュ、ロタ、カンバル各国の陰謀と暗躍に、孤立無縁なバルサのチャグム探索行など、サグ(こちら側)の話を主にしつつ、ナユグ(あちら側)の変化についても差し挟まれていく形になってますね。呼応するふたつの世界の変化はそこで生きていくものたちにどんな未来をもたらすのでしょうか。
そして 『蒼路の旅人』で強い印象を残したヒュウゴとチャグムのやりとり(P216~218のあたり)の答えはどのようなものになるのかも気になります。

一度は分かたれたバルサとチャグムの歩む道はこの物語で再び交わることなりますが、その道は困難ばかりが待ち受けているように思えてしまいます。この先どうなうなってしまうんだろう?と不安になりつつも、オールスター総出演な展開が楽しみでもあり。
ヒュウゴの再登場も嬉しかったです! バルサとの共演も豪華でしたね~。

このシリーズを読み始めてからかれこれ6年くらいは経っている筈なんですが、チャグムの成長の著しさになにやらしみじみしてしまいました。愛くるしい少年だったのが立派な青年に育ちましたね。彼の選択の結果がどうなるのか最後まで見届けることが出来るのは嬉しいことであります。
次巻も楽しみです。

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2007.04.16

泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部 (酒見賢一)

泣き虫弱虫 諸葛孔明 第弐部 画像クリックでamazonへ

『泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部』
酒見賢一 著 文藝春秋 刊


一目逢ったその日から、変の花咲くこともあるのかどうか。
じらしにじらした孔明の臥竜伝説が(なんかおかしな風に)実を結び、骨の髄までインテリ好きで手のつけられない軍師萌えの劉備は熱烈な(?)三顧の礼をもってしてミステリアスかつデンジャラスな宇宙の中心で奇策を叫ぶ最終兵器軍師・孔明(←長い)を迎えることに成功する。ふたりは涙ながらに互いの思いを確かめ合い、孔明は晴れて(?)劉備軍団へ迎え入れられることになるのであった。色んな意味でアンビリーバボー!
しかし! そんな孔明の前に立ち塞がるのは、桃の樹の下で「死が三人を分かつまでっつーか死ぬ時ゃ一緒だぜ!」と永遠の兄弟愛を誓い、激しいまでに劉備ラヴを自認している年季の入った兄者萌えーな猛将で激将な暴将の関羽と張飛。どこの馬の骨ともわからぬ軍師の真価を量らんと虎視眈々な前門の張飛、後門の関羽に対する孔明の策は?
あとついでに迫り来る曹操軍への対抗策は?


今回は前巻ほどの強烈な爆笑ポインツ(三国志イングリッシュヴァージョンとか)はないものの、相も変わらず鋭いツッコミはコンスタントに健在です。何せ今回の幕開けは三国志の知られざる裏設定から始まるのです。血沸き肉踊る武闘派歴史小説にこんなスピリチュアルな設定があったなんてシンジラレナーイ!
今回のメインエピソードは通常短めにしか語られない長坂坡(ちょうはんは)の戦い。それがこの巻ではやたら長くなっています(要はツッコミポインツが多い)。
曹操軍を向こうに回しているのに妙に緊張感の無い劉備軍の逃亡劇(人間誘蛾灯の如くに人心を掌握しまくるどんな時だってくじけないっつーかまったく懲りない男・劉備元徳のあまり誠意の感じられない 仁慈パフォーマンスが爆発。孔明プロデュースのマジックショーもあるよ!)の逃亡劇を描きつつ、ヤのつく自由業っぽい孫権軍の動向も語られ、ちょっぴり(かなり凄く)危なげな展開です。劉備軍大ピンチ!!
そして勿論孔明の(主に捏造された)大活躍(火計とか火計とか呉の魯粛子敬に自分から告らせたりするおともだち計画とか)のエピソードも満載でお腹いっぱいです。
戦いでストレス発散できなくて落ち込んだりしたけど(ありえねー)見せ場を与えられて元気になった張飛の姿にも感動しましたが、個人的には趙雲子竜の独擅場「趙雲子竜単騎劉禅を救出す」のエピソードに震えました。
妻子を棄てて逃亡した劉備(ひでえ男だ)は南方に逃亡するのですが、そこでぼくらのナイスなガイである趙雲子竜が劉禅(阿斗)を単騎で救い出す、子竜ファンなら満場一致で名場面とすること請け合いな永久保存版的(※録画は標準希望)感動必至のエピソードです。
なんですが。
羅漢中の筆のすべりっぷりと酒見先生のツッコミにかかると、なんかやっぱり迷場面になっちゃうんだよねぇ~(半笑い)。
そうそう、子竜ってば劉備に「満身これ肝」とか云われていたそうですね。八面六臂の大活躍を見せる家臣に対して肝臓呼ばわりってそれどうよ? もしも上司に「君はどこから見ても肝臓っぽいね!」って云われたらパワーハラスメントもいい所だと思います。出るところに出なきゃ!
まあそんな超肝い(?)子竜は、曹操軍を殺って殺って(途中で敵の名剣を奪ったりも。←盗賊?)殺りまくった末に夫人と阿斗を見つけます。逃亡途中に重傷を負った夫人は子竜に阿斗を託して自ら井戸に身を投げ、趙雲は赤子の阿斗を守りつつ戦場を駆け抜ける(その間も勿論殺戮しまくり)のですが、曹操軍の武将張コウ(※合におおざと)とその部隊に立ち塞がれます。張コウから逃げるうち、前方にあった大穴に馬もろとも落ちてしまう趙雲(なんか間抜け)と阿斗。その穴の中に今まさに張コウの槍が突き出されんとしていた。趙雲、絶体絶命の大ピンチ! 
するとその時、穴の中から一条の光が立ちのぼり天地を結んだのであった!(←怪奇現象?)
赤い光に包まれて穴から出てきた趙雲は敵から奪った神秘の宝剣青釭(せいこう)の剣と自分の武器涯角槍(がいかくそう)の二刀流(吼えろ涯角槍! 猛れ青釭剣!!とか云ったかどうかは定かではない)で大量破壊活動アンド大殺戮をしながら疾走して行くのだった。テリブルテリブル。
ガイ・ボルグ(とかグングニール)とエクスカリバーとストームブリンガーを合わせたみたいな感じとか云うと西洋ファンタジーに親しんでいる方にもわかりやすい(かもしれない?)。
そんなにまでして劉備のもとに辿り着いた子竜ですが、なんと劉備は差し出された我が子を地面に叩きつけたのでした(酷)。子竜を失いそうになった劉備の仁義パフォーマンス、赤子相手に炸裂です。子竜のためならわが子もぶん投げる。それがどうした文句があるかと云わんばかりの態度です。獅子ならぬ竜奮迅の働きをしたのに立場ナッシングです。でも子竜が感動してるからそれでいいんですかそうですか。
個人的に気に入っている諸葛均くんは、劉備軍きっての知性派猥談師簡ヨウ憲和(※ヨウは擁のつくりの部分。敵軍の真ん中でお昼寝をかましていたという強者)の薫陶を受け、厳しい漢(おとこ)教育(英才エロ教育)を受けて華々しい男道への第一歩を踏み出してみたりしたみたいなので、彼の成長していく姿を見るのが楽しみです~。


皆が楽しみにしている赤壁の戦いの模様は次巻以降になるんでしょうかね。
唸れ奇策! 迸れ孔明イズム!!
早く続きが読みたいんですが当分続きは出そうもないので、蜀の巻だけでも正史を読んでみるべきかなぁ。
ツッコミ職人裴松之(はいしょうし)の「ツッコミキレ結び」(うさんくさくて嘘っぽい逸話をもりもり集めて多数引用し、それにいちいち突っ込むという高等技術。ノリツッコミに近いのか?)の名人芸をこの目で確かめたい!(って翻訳しか読めないけど)。


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2007.04.13

泣き虫弱虫諸葛孔明 (酒見賢一)

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『泣き虫弱虫諸葛孔明』
酒見賢一 著 文藝春秋 刊


三国志と云いますと、武力・謀略・時の運に恵まれた武将たちが天下に覇を唱えんと血潮を滾らせる武侠小説であり、悠久なる中国の歴史に思いを馳せちゃったり先人たちの思想に感じ入っちゃったりなんかする素晴らしき歴史小説でもあり、生まれた時は違えども死すときは同じ!と固い誓いで結ばれた義兄弟やら主君にやたらに忠実な臣下たちの感動逸話が満載で熱き感動が所構わずどばどばと迸る物語でもあるイメージがございます。天下を取りたいか敗走は怖くないか。
でもほら中国が舞台の話ってどうにもこうにも難しい漢字ばっかりで登場人物は本名とか字とかで呼び方が一致しなくて誰が誰やらよくわかんないしー、地名を覚えるのも超めんどい感じだしー、なんかやたら長くってどうでもいいような話が挟まれちゃってて本筋が見えなくならなくなーい? てかつまんなくない?
とかそんなことを考えてしまっているパソコンの前のアナタ! そうアナタです!!
そんなアナタの為に、博覧強記な著者がまさに一度開けばノンストップな酒見版「三国志」を書いて下さいました(特に根拠ナシ。ほぼ妄想)。
有難う酒見先生!
著者はその博識と巧みな語りを活かして、三国志のありとあらゆる登場人物と挿話に対して鋭過ぎるツッコミを随時入れつつ、物語の流れを概観し、なおかつたまに真面目な歴史観などが差し挟まれたりするので読者にちょっとばかり賢くなったような錯覚さえも抱かせる(※だいぶ勘違い)のですが、その直後にまたしても辛口なツッコミが入る為、長いからと云って飽きている暇などございません。
恐るべし、講釈師・酒見賢一の垂れ流れんばかりの才気。
従来の三国志イメージを粉砕する勢いでのノリノリツッコミ語り(騙り?)は縦横無尽に炸裂し、三国志でのメインキャストである僕らのヒーロー劉備・関羽・張飛などはもうけちょんけちょんです。劉備軍きっての快男児な筈の趙雲子竜もなんかちょっと(かなり)変な人になってます。あらららら。
まぁそんな変人揃いの劉備軍団に三顧の礼で招かれるのが超有名軍師の諸葛孔明な訳なんですが、「ドキッ☆変人だらけの三国志」の中でも大いなる奇才で機才で鬼才振りを大発揮、その強烈な知性で次第に頭角を表していくのであった。凄いぞ孔明流石だ諸葛亮このまま曹操軍をぶっつぶせ!
ってな読者の期待は裏切られることになるんですね。ああんがっかりー。
読者の期待をよそに、孔明は幼き日からやたらスケールのでかいことを云って周囲を困惑させまくり、意味不明な歌(孔明の十八番の「梁父吟」)を歌いながらその辺を徘徊したり、突如として仙人っぽいファッションを身にまとってみたり、自分で自分を売り込むための臥竜伝説を師を巻き込んでせこく捏造してみたりとはっきり云って奇矯そのもの。
そんな弟を心配した孔明の姉は弟に良縁を得よう(嫁でも来れば落ち着くんじゃないかってな考えによる)と奔走しますが、孔明の変人ぶりは今や近隣住民にとっては周知の事実(つーか近所迷惑)なもんで、そんな男の元へ娘をやろうとする親などは見つかる筈も無い。ところが姉の舅の協力(陰謀?)によって、名門黄家の娘と結ばれることと相成ります。変人孔明に嫁いだ黄氏の運命や如何に?とハラハラするまでもなく、割れ鍋に綴じ蓋なふたりは比翼連理っつーかぶっちゃけバカップルと化し、いちゃいちゃラヴラヴな新婚生活を満喫するのであります。漫画であれば無意味に花と点描を飛ばし、舞台であればピンクのスポットライトで照らし、映画であれば「孔明・黄氏 愛のテーマ」(むやみやたらにドラマティックで甘ったるい感じの曲を希望)を登場シーンのことごとくに流して欲しいほどのアツアツぶりです。
しかもこの黄氏、機械工作に非常なる才能を持っていたのでありました。孔明の弟諸葛均 を実験台 にその発明機械を操らせ、黄氏の才はますます増し、(主に諸葛均を)びっくりどっきり(させる)メカの開発は着々と進み、夫妻の愛情はますます深まっていくのでありました。まさに夫婦相和し。

そんなこんなで劉備が孔明に三顧の礼をかますのは物語も終盤になった頃です。
「劉備と孔明、二人の人生が初めて出会い交わった運命の瞬間であった。孔明的には宇宙でたったひとつの奇跡的ラブロマンである。」(P470)のシーンは滂沱と流れる涙・涙・涙の奔流でクライマックスを迎えます。流れた涙は何リットルなのかもはやガロン単位で勘定した方が早いのかという疑問はさておき、読者としても長いこと待たされていた感動がみなぎるこの場面では、私の中でも色々とこみ上げてくるものが多く(笑い涙や品の無い笑い声など)、それらを堪えるのに必死になりました。なんて感動的なのか!

まぁそんな訳で(どんな訳か)、こんな記事を読んでいるだけではこの作品の宇宙的な面白さや孔明イズムの真髄に触れることは出来ません(じゃあ何でこんな文章を書いてるんだと云うツッコミは不可です。それは云わない約束でしょ?)。
百聞(?)は一読に如かず。一読笑殺の講釈師の実力をとくと御覧あれ!!


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2007.04.03

天山の巫女ソニン 1 黄金の燕 (菅野雪虫)

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『天山の巫女ソニン 1 黄金の燕』
菅野雪虫 著 講談社 刊


赤ん坊の頃に巫女となるべく天山に引き取られたソニンは、十二年間の修行の後に巫女としての素質がないことがわかって里に帰される。家族との再会も束の間、ある出来事から沙維(サイ)の国の七番目の王子の侍女として城に召されることになり、そこで思わぬ陰謀に巻き込まれるが……。

半島部分に三つの国があるってな設定で三国時代の朝鮮半島(新羅と高句麗と百済が並立していた時期あたり)を連想しましたが、仙人が存在している世界なので中華風ファンタジーになるのでしょうか。
書きようによっては重苦しい話になりそうなんですが、全体的に軽めと云うかだいぶ薄味な印象でした。
ソニンに関しては内面描写があまりにもあっさりし過ぎに思えましたし、彼女は良くも悪くもとても素直なので、その辺りもけっこう物足りなくて。巫女の教育課程であまり感情的にならないように躾けられているせいもあるんですけど、もうちょっと彼女の個性を前面にしても良いんじゃないかなぁ(何事においても素直なのが個性なのかもしれませんけど )。
登場人物の関係についてもちょっと物足りない部分が多かったです。特に、ソニンが仕えることになるイウォル王子との信頼関係はもうちょっとページを割いて描いて欲しかった!
イウォル王子がソニンに対して特別な気持ちを抱く理由(恋愛感情ではありません)は勿論あるんですが、なにかもうひとつくらいふたりの間の絆を強める出来事があれば王子と一緒にソニンに入れ込めたんですけどね。
家族や友達のミン(祭りのエピソードと別れのシーンが凄く良かった!)との関係の描き方はとても良かっただけにちょっと残念。

あと、ページ数の割に色々なエピソードを盛り込みすぎているような印象でした。
北の強国の巨山(コザン)、海の民を擁する江南(カンナム)、両国に挟まれた豊かな土地を持つ沙維(サイ)。この三国間の国際問題や沙維の国を揺るがそうとする陰謀とファンタジー的な部分が微妙に噛み合っていないためなのか、盛り上がるべき所もさらっと流れてしまっているようでどのエピソードも散漫になってしまったような。
個人的にはファンタジー的な部分の盛り上がりを大いに期待していたもので、その点が喰い足りないと申しますか……。政治的な話は背景にとどめておいて次巻につなげて欲しかったです(何様か)。

神がかり的な要素だけでなく情報収集と分析能力も必要とされる巫女の<夢見>の能力はひねりが入っていて面白かったです。巫女の世界についてはもっと知りたいんですが、この先も言及があるのかどうか。

次巻の舞台は今回のラストの方で縁が出来た江南の国へ移るようです。
ソニンやイウォル王子の成長や、三つの国の関わりはどのように変化していくのかが楽しみ。
続きも読みたいと思います。


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