レベッカ (ダフネ・デュ・モーリア)
『レベッカ』
ダフネ・デュ・モーリア著 茅野美ど里 訳 新潮社 刊
以前から読もう読もうと思いつつ、なかなかタイミングが合わなくて今まで未読だった作品の新訳が出版されたので読んでみました。
二十一歳の主人公の「わたし」は生計を立てる為、好奇心旺盛で俗物なヴァン・ホッパー夫人のコンパニオン(話し相手兼身の周りの世話係のような役割)を務めています。
ヴァン・ホッパー夫人のお供でモンテカルロに行った「わたし」は、妻を亡くした英国紳士マックス・デ・ウィンターと親しくなります。初恋ならではの真摯な気持ちでマックスに惹かれていく「わたし」はマックスと結婚し、彼の領地であるマンダレーで暮らすことになります。
ところが、マンダレー邸には先妻レベッカの残したあらゆるものが溢れていて、「わたし」は次第に不安に苛まれることになり……と云うのが物語の始まりまでのだいたいのあらすじです。
邸の至る所に先妻レベッカの影が潜み、女中頭のダンヴァーズ夫人は事あるごとにレベッカへの崇拝をあからさまにし、周りの人々もレベッカを褒め称える中で、劣等感と孤独から「わたし」は夫の愛情すら疑い始め、精神的に追い詰められていくのですが、18章でその緊張感が頂点に達したところで、19章から物語は意外な展開になって行きます。18章までは心理的に抑圧されてどんどん追い込まれていく話だったのが19章以降はジェットコースター的サスペンスになり、レベッカの「真実」が明かされます。18章までは比較的ゆっくり楽しんでいたのが19章以降はもう止まらなくなって一気読みしてしまいました。
スリラーでサスペンスなのかと思ってましたら、ミステリ要素もあり主人公の成長小説でもありロマンスでもありと盛りだくさんで、かなり長い物語なのに飽きる暇が全くありませんでした。とても面白かったです。
原書の発行は1938年なんですが、古臭い部分がなくて現代でも読み継がれるだけの魅力を備えた作品なのだと納得。
大筋が面白いのは勿論、細かい描写が詩の様に美しいのも素晴らしいです。
第一章では主人公の夢の中に出てきたマンダレーが語られますが、その描写が本当に綺麗で! 読んでいる自分もマンダレーへの道をそぞろ歩いているような気分になりました。
悲劇的な現実が美しい「夢」を際立たせ、物語の最後と対応させているあたりも見事ですね。
この作品中で描かれている、齟齬から来る猜疑心や不安や嫉妬や抑圧などは常に人の心の中にある普遍的なものですし、訳文も平易で読みやすいものなので、「昔の小説だから……」と敬遠していた方にも是非読んでみて戴きたいです。



Comments
コノール王を検索して辿りつきました。とても興味深いサイトでうれしかったです。わたしは語り手でディアドラとクレヴィンの竪琴...を語ったことがあります。
ところで「レベッカ」の新訳は読んでいないのですが、昔むかし。わたなべまさこさんという漫画家がこのものがたりを少女漫画にしていました。...たしか「イサベル」という題で週間マーガレットに連載していたと思います。主人公を少女に替えていましたがスリリングな展開で発売日がたのしみでした。
小説から..というより映画からのリメイクだったのかもしれませんね。当時 水野英子さんの「セシリア」...ジェニィの肖像「すてきなコーラ」...うるわしのサブリナなど映画から翻案した漫画が少女たちの心をとらえたのです。それからマーガレットでは西谷祥子さんや忠津陽子さん、少女フレンドでは青池さんたちの世代になり、少女漫画は次第に現実味を帯び、萩尾さんの登場を待つのでした。
Posted by: 名も無き戦車 | 2008.05.26 at 01:19 AM