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2007.08.31

ずっとお城で暮らしてる (シャーリイ・ジャクスン)

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『ずっとお城で暮らしてる』
シャーリイ・ジャクスン 著 市田泉 訳 創元推理文庫 刊


数年前に起きた毒殺事件で家族の殆どを亡くし、姉のコンスタンスと事件の後遺症で体の不自由な伯父と共に大きな邸に暮らすメリキャットは、村の人々の悪意に晒されながらも日々を過ごしていくのだが、従兄のチャールズが現れたことで彼女たちの生活は変化していくこととなり……。


美しいカヴァー画から、閉塞的な状況に起かれた少女が想像上の美しい王国にすがりつつ健気に生きていこうとするものの、心無い人々の悪意に晒された挙句、精神的に崩壊していくような話なのかと想像してましたら全然違ってました。
読み進めるほどに世間から逸脱していく主人公が一番怖いよ!
周囲の人々の悪意はまだ理解の範疇なんですが、主人公の言動に関しては読み進めるうちに理解不能になっていきます。
メリキャットにはメリキャットなりの独自の理論(しかも実年齢よりもかなり幼い考え方)があるのですが、読者である自分はどんどんそれについていけなくなるんですよ。
様々な不快感を抱きながら読み進めていって、結局最後まで読者に不快感を突きつけることができる著者の筆には本当に凄みがありました。
でも、自分にもメリキャットのような「幸せ」に憧れる気持ちがあるから読んでいて同属嫌悪的な不快さを持ってしまうのかもしれませんけどね。
やっぱりこう、超常現象よりも人間の方が怖いよな……としみじみしてしまいました。
この話、姉のコンスタンス視点だったら怖い部分がもっと直接的になってしまうんでしょうね。彼女の立場にだけは絶対なりたくないなぁ……。うわー。

少女が持つあどけなくも恐ろしい「毒」が綺麗にまとまっているだけに読後感の悪さが際立つ逸品(※褒めてます)。
人間の心の奥深くにある暗い部分に触れて厭~な気持ちになりたい方にはお薦めです(どんな薦め方か)。

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2007.08.11

マリナー氏の冒険譚 (P・G・ウッドハウス)

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『マリナー氏の冒険譚 』
P・G・ウッドハウス 著 岩永 正勝 ・小山 太一 訳 文藝春秋 刊


ウッドハウス選集 の3巻目。
帯によりますと、続刊が決定したそうです。やった!
こちらのシリーズの装幀はとってもキュートなので、次回作のデザインも楽しみです~。


ジーヴスものや『エムズワース卿の受難録』(→感想)ほどのインパクトはございませんでしたが、やはりウッドハウスの作品だけあって安心して楽しめますね。
釣遊亭(アングラーズ・レスト)のバー・パーラーで、紳士マリナー氏が親類縁者の遭遇した事件を巧みな話術で語っていく構成になっています。
弟や甥の強烈な体験談にはくすくす笑ってみたりハラハラしてみたりと楽しませてもらいましたが、マリナー氏自身が経験した冒険譚がないのがちょっと物足りないかな。実はタイトルからマリナー氏の武勇伝が披露される短篇集を想像していたもので。
特に気に入っているのは吃音に悩むマリナー氏の甥ジョージが共通の趣味(クロスワードパズル)を持つ意中の女性スーザン・ブレイク嬢へ愛を語るために吃音を直そうと涙ぐましくもおかしい努力を繰り広げる「ジョージの真相」、ミステリ狂の甥のシリルが愛するアミーリア嬢と結婚する為に彼女の母親を狡猾に(?)攻略する「ストリキーネ・イン・ザ・スープ」(これも共通の趣味を持つ恋人同士の話だな)。
様々な男性を翻弄するウィッカム嬢は、『でかした、ジーヴス』(→感想)に出てきたロバータ(ボビー)・ウィッカム嬢と同一人物なんですよね。
いやー、今回の活躍も凄かったですよウィッカム嬢。災厄の女王に相応しい誠に素晴らしき仕事っぷりでございますってぇか、被害者はバーティだけじゃなかったのな!(笑)
ところで、気弱な紳士たちの窮地を救いまくる(?)《マリナー印バック-U-アッポ》(※マリナー氏の弟ウィルフレッドが発明した強壮薬)の効果は本当に絶大な模様なんですが、禁断症状とか依存性とかないのかなぁ~とちょいと疑問。
まぁ、常用している甥のオーガスティンには特に問題がないみたいだから大丈夫なんでしょうけどね。でも、Bタイプの用法用量についてはちょっと不安を抱かずにはいられませんよ?(笑)


それにしてもマリナー一族の家系図が欲しいなぁ……。
親戚一同がどこでどう血が繋がってるのか読んでるだけではわからないんですよねぇ~。
因みにウィッカム嬢はマリナー氏の従妹の娘になるそうです(※「にゅるにょろ」参照のこと)。

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マジック・フォー・ビギナーズ (ケリー・リンク)

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『マジック・フォー・ビギナーズ 』
ケリー・リンク 著 柴田元幸 訳 早川書房 刊


『スペシャリストの帽子』(→感想)のケリー・リンクの久し振りの邦訳短篇集です。
収録作品は以下の通り。


「妖精のハンドバッグ」
「ザ・ホルトラク」
「大砲」
「石の動物」
「猫の皮」
「いくつかのゾンビ不測事態対応策」
「大いなる離婚」
「マジック・フォー・ビギナーズ」
「しばしの沈黙 」

『スペシャリストの帽子』よりも不条理度数が上がっているように思えました。読者を煙に巻くような書き振りは相変わらずと云ったところでしょうか。
物語の出発点は読者の住む世界の現実と地続きなように見えるので始めはすんなりと入れますけれど、読み進めていくうちに気がついたら思ってもみなかった方向へ誘い込まれてしまうような作品ばかりです。
祖母の残した家宝のハンドバッグの中にはひとつの国が丸ごとと大量の図書館本が入れられていたり、異世界のすぐ傍にあるコンビニにはゾンビが来店したり、何かに取り憑かれた家で日々が次第に家族それぞれの生活を乱していったり、生者と死者の間で婚姻が結べる世界では離婚の話し合いが霊媒を通じて行われていたり。
設定は奇妙なのですが、登場人物たちの持つ心情は読者にも理解できるようなものが多いので、共感と疎外感とを味わいながら作品世界を漂って行けるような気がします。
収録作では民話や童話の香りを残したような「妖精のハンドバッグ」と「猫の皮」、現実と空想世界の境界が互いに逸脱しあって曖昧になっていく「マジック・フォー・ビギナーズ」、「しばしの沈黙」あたりが好きです。


明確なオチがない作品が多いので不条理なものが苦手な方にはお薦めしにくい本かもしれませんが、わからないことを無理に理解しようとせずに作品世界の奇妙さや不気味さをそのまま受け入れられれば楽しめるのではないかと思います。

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