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2007.09.15

赤き死の訪れ (ポール・ドハティー)

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『赤き死の訪れ』
ポール・ドハティー 著 古賀弥生 訳 創元推理文庫 刊

1377年、12月。
ロンドン塔の城守ラルフ・ホイットン卿が、鍵をかけ見張りを置いた塔内の部屋で喉を真一文字に掻き切られて殺害された。
死の4日前、彼の元へは中央に三本マストの船と四隅に黒い十字架が描かれた謎めいた手紙と胡麻のシードケーキが届けられ、それを受け取ったラルフ卿は自身の居室を移すほどの脅えようだったという。
やがて卿とつながりのある人物らにも同様の手紙が送られ、彼らも次々と殺されていく。
クリスマスを間近に控えたロンドンで、クランストン検死官とアセルスタン修道士はそれぞれを悩ませる問題を抱えながら暗殺者を探し始めるのだが……。


検死官のジョン・クランストン卿に「修道士」呼ばわりされるたびにアセルスタン托鉢修道士が「わたしは修道士ではなく、托鉢修道士です」といちいち生真面目に訂正する会話も久しぶりで楽しいシリーズ2作目。
「修道士」と「托鉢修道士」は原文では‘monk’と‘friar’とで使い分けられているのでしょうかね。ちょっと気になってます。

昨年刊行された1作目の『毒杯の囀り』(→感想)が気に入ったので、シリーズの続きが翻訳されるのをずっと楽しみに待っておりました。
今回はロンドン塔で起こった殺人事件をメインに、クランストン検死官とアセルスタン托鉢修道士のそれぞれが悩みを抱えながら謎を追っていく構成です。
ジョン卿の方は最愛の奥方が何やら秘密を抱えているようで、もしかして不義でも……?と疑心暗鬼になっており、日ごろの快活さはどこへやら、相棒のアセルスタン修道士にまで八つ当たりをする始末ですし、アセルスタン修道士の方では聖アーコンウォルド教会の墓地に墓荒らしが出没して悩んでいる所に加えて、想いを寄せている未亡人ベネディクタに近づくヴィンセンティウス医師(※すごい美男子な上に医師としても非常に有能)が現れてこれがまた悩みの種に。
さてさて、果たして足並みの揃わないコンビはそれぞれの悩みと殺人事件を解決できるのか?ってあたりがミステリ的な肝なのでしょう。
とは云うものの、自分が読んでいて楽しかったのは、なにやらきな臭くなっていく時代背景を織り込みながら中世の風景を活写していく著者の筆運びと登場人物たちの人間味溢れる描写を堪能することだったんですが(笑)。
正直云ってミステリ部分よりもこちらの方をより楽しみにしているんですけど、読み方としてはやっぱり邪道なんでしょうね(すいません)。
冒頭の騎士と少年のエピソードからがっつりやられまして、降誕節を迎える冬のロンドンの寒々しさ、ロンドン塔の禍々しさ、あとは何と云っても作品を彩る御馳走の数々が非常に印象的で!(おいコラ)
今回は食事のシーンが結構多かったので、読みながら「熱々のビーフパイ! 野ウサギのワイン煮! 濃厚なオニオンソースで煮込んだビーフシチューパイ! キジの胸肉! スパイスたっぷりのスープ! 焼きたての白パン!!」とうっとりしていましたよ(食い意地が張っているのが丸わかり)。作品中の季節が冬なものだから、あったかい料理が凄く美味しそうなんですよ~(ヨダレが滂沱)。
クランストン検死官の素晴らしい健啖家っぷりには読んでいるこっちまで影響されてしまってちょっと弱りましたよ。 だってしこたま美味しそうに飲みかつ食べているんですものクランストン検死官ってば。悩んでいる割にはヴァイタリティの強さが飲食に現れてるんですなぁ(ヤケ飲みヤケ喰いな部分もいくらかはあるのでしょうけどね)。

あと、今回の最大のツッコミ所としましては、アセルスタン修道士が「そんなに見え見えなのだろうか?」と悩むあたりですな。
御当人様には全く自覚が無いんですかひょっとして!
自分がその場にいたらば無言で激しく頷きながら彼の肩を叩いてるよな……。
いや、そういう所がアセルスタン修道士の可愛らしいところなんだけどさぁ(笑)。

本筋とは関係ありませんが、作中でちらっと出てくる<山の老人>の手下の<暗殺教団>って言葉を見て、思わず宇月原晴明氏の『黎明に叛くもの』を連想してしまいました。 いえ、時代も国も全く別なんですけども。
その<暗殺教団>に関しましては、岩村忍氏の『暗殺者教国―イスラム異端派の歴史』という本が詳しいので興味のある方はどうぞ(ちくま学芸文庫から出ていましたが現在は品切れ中。リブロポート版などは図書館などに置いてあるかもしれません)。
『十字軍騎士団 』(橋口倫介 著 講談社学術文庫 刊)にも少し言及がありますので、十字軍に興味がある向きには面白いかもしれません。


来年にも3作目の翻訳予定が立っているようなので、続きを楽しみに待ちたいと思います。
また来年の秋頃には皆に再会できると良いなぁ。

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