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2007.10.20

魔使いの弟子 ・ 魔使いの呪い(ジョゼフ・ディレイニー)

魔使いの弟子 bk1 魔使いの呪い bk1

『魔使いの弟子』
『魔使いの呪い』
ジョゼフ・ディレイニー 著 金原瑞人・田中亜希子 訳 創元ブックランド 刊

七番目の息子のそのまた七番目の息子トムが弟子入りすることになったのは、悪さをする魔物や魔女たちから人々を守る「魔使い」だった。
……と書くと何やら派手な魔法や魔術を使って魔物の類を退治したりしそうに思えますが、自らの経験と学んだ知識(あとはいくらかの才能とか体質とか生まれとか)を駆使して魔物を封じるかなり地道な仕事です。
現場でこつこつと経験を積み、成功や失敗から様々なことを学んでいくって感じかな。仕事を学ぶと云うことが描かれているのと、主人公のトムがきちんと自分で考えて様々な問題に取り組んでいく点が良いと思います。
女性の描き方にはちょっと(かなり)ひっかかるところがあるんですけど、概ね面白かったです。
魔使いとしてのトムはこれからまだまだたくさんの修行と師匠の教えが必要なようですが、悪とも善とも云い切れない不思議な存在の少女アリスとの関係も含めて将来が楽しみ。

続く2冊目は、

ジョン・グレゴリーに弟子入りしてから半年が経ち、半人前ながらも日々仕事を学び続けているトムだったが、高熱に倒れた師の代わりに人裂き魔(リッパー)と呼ばれる凶悪なボガートを封じることになり……。

トムの正式な初仕事と、師匠の過去にトムの両親の過去、アリスとの再会、強大な力を持つ敵対者との戦い。
こう書き出してみると、成長物のファンタジーによくあるタイプの話に思えます。しかし、ここに女性が持つ変則的な役割を加えるとなにやら話が複雑な方に流れ出して行くのですよ。
前回同様、アリスはトムを窮地に追い込むような行動ばかりを取るのですけれど、窮地に陥ったトムを救うのもまたアリスなのです。
闇に染まった存在イコール完全な悪って訳でもないのが面白いです。
このシリーズの舞台となる社会では女性の存在にかなりの偏見(蔑視に近い部分もあり)が持たれていますが、著者はその偏見を女性を多面的に描くために使っているようですね。
今後の展開も男女の関係性が鍵になっていくのかも。


ジョン・グレゴリーと魔女メグ、エミリー・バーンズの関係については次巻以降に詳しく言及があるのかな。
そのあたりに期待しています。


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2007.10.15

第九軍団のワシ (ローズマリ・サトクリフ)

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『第九軍団のワシ』
ローズマリ・サトクリフ 著 猪熊葉子 訳 岩波少年文庫 刊


ローマ軍の百人隊長マーカス・フラビウス・アクイラは、配属されたブリテン島のイスカ・ダムノニオルムでのブリトン人氏族との戦いで足を負傷し、軍人としての未来と希望のすべてを断たれる。
カレバに住む父の弟アクイラ叔父の家に身を寄せることとなったマーカスは、気晴らしに出かけた闘技場で若いブリトン人剣闘士に惹きつけられる。マーカスは敗北した剣闘士エスカを奴隷として買い取ったが、ふたりの間には次第に主従関係を超えた信頼と友情が育っていく。
そしてある日、アクイラ叔父の家を訪れた第六軍団の総司令官クローディウス・ヒエロミアヌスから、北方氏族の反乱を平定する途中で行方知れずとなった第九軍団の象徴の《ワシ》が北の氏族の中で神として崇められているとの噂を聞いたマーカスは、かつて父親が指揮していた軍団の名誉を回復するべく、かけがえのない友となったエスカと共に《ワシ》を探す旅に出ることとなるが……。


サトクリフの代表作、ローマン・ブリテン四部作の一作目です。
ごく大まかに云えば、喪失と友情と信頼を主軸にし、《ワシ》をめぐる冒険を通じてふたりの青年が自らの道を見出していく物語でしょうか。
主人公のマーカスは負傷によって進もうとしていた道を閉ざされ、未来に希望が持てないような状況へ置かれることとなります。この物語のもうひとりの主人公であると云えるエスカは奴隷として拘束され、彼の未来もまた閉ざされています。エトルリアとブリテンを故郷とするふたりの出会いが閉ざされていた互いの未来を開いていくきっかけとなる訳ですが、彼らの心理的な距離が少しずつ近づき、やがては強い信頼関係に変わっていくくだりは読み応えがありました。それぞれの持つ誠実さが相手に届いていくエピソードも素晴らしいです。
後半での、消えた軍団と《ワシ》の探索行はミステリ的な興味で読み進めていくことになりますが、ただ謎を追うだけでなく、マーカスらが辿り着いた先でのブリトンの氏族たちが持つ文化の描写も力強くなされており、特に氏族たちの儀式である「新しい槍つかいの祭」の場面は様々な文化を織り込みながら重層的に物語を成立させていくサトクリフの筆ならではの迫力があって白眉だと思います。
ローマン・ブリテンの時代背景と舞台となる土地の細かい描写はとにかく素晴らしいです。読んでいてマーカスとエスカの見た風景を自分でも見ているような気がしました。マーカスが回想する故郷の風景も印象深いものがありましたし、舞台となったブリテン島に関しても、北の荒涼とした風景とマーカスにとって大切な場所となった南の土地の暖かさが対照的でありながら互いを引き立てあっているのも良いですね。やはり サトクリフは舞台となる土地の魅力を書くのに長けた作家なのだなと再認識しました。

物語全体のバランスを考えれば瑕瑾に過ぎないのですが、惜しむらくは物語における女性の存在感がいまひとつ薄い点でしょうか。青年たちの物語である以上は仕方がないにせよ、オオカミの子チビを通じてマーカスとの交流を深めていく隣家の少女コティアは非常に魅力的なだけに彼女の活躍する場面があれば……などとつい考えてしまいました。まあ、欠点のうちにも入らないような些細なことではありますけれど。


あと、文庫の表紙を飾っている池田正孝氏の写真が素敵で眺めているだけでも嬉しくなります。自分がハウスステッズ要塞跡を訪れた時のことを思い出したりなどしました。土地の魅力が伝わってくる良い写真ですね。
巻末に収録されている池田氏のエッセイも楽しませて戴きました。サトクリフ作品への愛情が感じられて好ましい写真と文章なのでハードカヴァー版をお持ちの方にも是非読んで戴きたいです。
嬉しいことにローマン・ブリテン四部作はすべて岩波少年文庫に収録されるとのことで、文庫カヴァーにはすべて池田氏の写真が使われるそうです。文庫化自体も楽しみでありますが、装幀も楽しみになりました。


何度も読み返して楽しめる作品を文庫という形で手元に置けることになるのは嬉しいことですし、新しくサトクリフ作品と出会う方たちが増えるのも嬉しいことです。
新しい形となったローマン・ブリテン四部作がこれからもたくさんの人たちに愛されることになることを願ってやみません。

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2007.10.14

ドラッケンフェルズ (ジャック・ヨーヴィル)

 ドラッケンフェルズ (HJ文庫G ジ 1-1-1 ウォーハンマーノベル 1) 画像クリックでamazonへ

『ドラッケンフェルズ』
ジャック・ヨーヴィル 著  待兼音二郎 崎浜 かおる 渡部夢霧 訳  
ホビージャパンHJ文庫 刊


有史以前から人々に災いをなすコンスタント・ドラッケンフェルズ。
彼を退治する為、オストランド選帝侯の子息オスヴァルト公太子は討伐隊を組織し、ドラケッケンフェルズ城へ向かった。邪悪な<大魔法使い>は滅ぼされ、彼らの冒険は伝説となった。
その二十五年後、オスヴァルト自身の強い要望によって討伐の経緯が演劇化されることとなる。
公太子から劇化の一切を任された劇作家兼俳優のデトレフ・ジールックは、関係者と共に上演会場であるドラッケンフェルズ城へ向かうが、呪われた舞台で彼らを待ち受けていたのは恐るべき出来事だった……。


TRPG『ウォーハンマー』の作品世界を独自に展開させたノベライズ作品。
ほぼオリジナル作品なので、ウォーハンマー自体を知らなくても特に問題なく読めると思います。
ウォーハンマーに関する知識が皆無の自分でも物語を楽しむことができました。

知識が無いのに何故手に取ったかと云えば、『ドラキュラ紀元』 『ドラキュラ戦記』 『ドラキュラ崩御』のキム・ニューマンの別名義作品だからなのです。
ジュヌヴィエーヴ・デュドネ嬢が出演する作品としてはこの『ドラッケンフェルズ』が先行していると云うのもあって以前から読みたかったのですが、角川文庫版は絶版になって久しく、古書は高値で手が出ませんでした。
今回新版として発行されたのは嬉しい限り。

内容はと云えば、展開が早いな~と思うものの概ね面白かったです。
これはページ数が少なめなところに色々な要素を詰め込んでいるからなのでしょうね。
逆に云えば、登場人物ひとりひとりに様々な背景があるのを匂わせながらもあのページ数にこれだけの分量のエピソードを収められる力量と構成力が凄いのかな。しかもこれがデビュー作ってもう……。

過去の因縁をなぞるかのように呪われた城で再現される惨劇や、クライマックスの舞台での展開は非常に迫力がありました。 作中劇と合わせた章立ても心憎いですね。 密度の濃さも流石と云ったところ。
でも、ジュヌヴィエーヴ嬢のキャラクター造形はニューマン名義の作品の方が好きかな。
当然と云えば当然なのですが、ドラキュラ三部作の彼女とはやはり微妙に違ってますよね。
それでもジュヌヴィエーヴ嬢の過去に関するエピソードなどは読めて嬉しかったです。


後日譚にあたる続篇2冊も購入済なので、続きも楽しませて貰おうと思います。
事件に関わった人々のその後も気になりますし。


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2007.10.13

グッド・オーメンズ (ニール・ゲイマン テリー・プラチェット)

グッド・オーメンズ 上 グッド・オーメンズ 下

『グッド・オーメンズ』上
ニール・ゲイマン テリー・プラチェット 著 金原瑞人・石田文子 訳

ハルマゲドンをなんとか食い止めようとする天使と悪魔が奮闘する話かな。各々の使命感によるのではなく、人間世界が気に入っているからって所がなんか飄々としていて好き。
でもって、黙示録を実現させる鍵となる子供をめぐって天国・地獄の勢力は勿論、人間までが巻き込まれて英国がえらいことになってます(笑)。
大事が扱われている割にはノリが軽めなのがゲイマン風で、魔女の生き方が地に足がついているところがプラチェット風な印象を受けました(両作家の作品に詳しいわけではないんですが、自分が読んだことのある作品の印象がそうだったので)。
このドタバタなハルマゲドン物語は一体どんな風に終わるのかな~と結構期待して読み進めましたが、自分がバタバタしていてゆっくり味わいながら読んでなかったせいもあるのでしょうけれど、地球滅亡までのカウントダウン!ってな大風呂敷を広げられた割にはさっさと畳まれちゃったと云うか、あっさり結末まで行っちゃったと云うか。予言書の使われ方も大仰な割に勿体無い感じと云うか。色々あるのに解決方法があっさりし過ぎていると云うか。
要するに薄味過ぎてあんまり印象に残りませんでした(汗)。
なんか映画やドラマの脚本のメインエピソードだけ抜き出して書いたノベライズ作品を読んだような気分で物足りなかったです( ノベライズ作品自体を否定している訳ではありません。念の為。ノベライズ作品にも非常に面白いものはありますから)。
文章が映像的なんでドラマや映画向きなのかもしれませんね。

黙示録の騎士の描き方もユニークでしたし、天使のアジラフェールと悪魔(堕天使)のクロウリーのコンビはなかなか良かっただけに残念~。 読後感は良かったです。

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2007.10.06

幼き子らよ、我がもとへ (ピーター・トレメイン)

幼き子らよ、我がもとへ上 幼き子らよ、我がもとへ下

『幼き子らよ、我がもとへ』上
ピーター・トレメイン 著 甲斐萬里江 訳 創元推理文庫 刊


  高台から望まれる絶景に、フィデルマは足を止めた。雪のように白い頂きを持つ小スケリッグ島が見える。その彼方にかすんだ輪郭を見せているのは、本土だ。
 高台には、百年少し前にフィーナーンによって建立された修道院があった。クロハーンと呼ばれる蜂の巣型の石の小屋が六軒と長方形をした礼拝堂が一棟、建っていた。その向こうには、いくつかの建物や、また別の礼拝堂も見える。だがさらにその奥に、一群の平石と石の十字架が見えることに、フィデルマは驚かされた。小さな墓地であった。人が住むことなど不可能と見える岩の塊としか見えないこの島に、人間はおろか、なんであろうと葬るだけの土があるのだろうか? 人が住もうとするにはあまりにも荒々しく、残酷とさえいえる場所だ。
 平らな石を積みあげた石垣を風雨からの障壁として、小さな畑も作られていた。数人の修道士が農作業をしているのが見える。フィデルマが驚かされたのは、このような島に泉が二つもあることだった。
「本当に、驚くべき場所ね」と、フィデルマはカースに囁いた。「修道士たちがこのように頑固に人を寄せつけまいとするのも、不思議ではないのでしょうね」

(下巻 P96~97より引用)


王の後継者である兄コルグーからの報せを受けて故郷のモアン王国へ戻ったフィデルマは、王国内の修道院に研究の為に滞在していた尊者(ヴェネラブル)ダカーンが殺されたと聞かされる。高名な学者で聖職者であるダガーンは隣国ラーハン王の近親者でもあった。彼の死はモアンとラーハンの間に戦をもたらしかねない。
詳しい調査を行い、事件を早急に解決するべく、フィデルマは護衛の戦士カースと共に殺人現場であるロス・アラハーの修道院へ急ぐのだが……。


『蜘蛛の巣』(→感想)に続く、7世紀のアイルランドを舞台とした、弁護士と裁判官の資格を持った修道女フィデルマが探偵役を務めるケルト・ミステリの第2弾です(でも原書の出版順から云うと3作目。ややこしい)。

そんなことはさておき、ゲール語の太字と多めな訳注、説明的な記述が多いのを除けば(←何様か)非常に面白いシリーズだと思います。
今回は修道院で起こった殺人事件が国家間の問題に発展しそうになる中で、モアン王国とラーナン王国の大国同士の力関係に小国のオスリガの事情が関わってくる展開になっています。
もつれあった謎の糸をフィデルマがどのように解きほぐしていくのかと云う本筋と、読みながら古代アイルランドの社会や文化を味わえる背景部分の両方を楽しみました。
しかし、『蜘蛛の巣』と違って最大の和みポイントであるエイダルフ修道士が今回はいなかったので、フィデルマの性格のきつさと云うか大上段に正論を云ってのける部分が読んでいてちょっとしんどかったです (今回のワトソン役の戦士カースも悪くはないんですけれど、どうも和むまでには至らなかったんですよ)。
正義と真実に重きをおくフィデルマの主張は勿論正しいものではあるのですが、読んでいて息苦しくなる部分が多いように感じてしまったのも事実です。 個人的にフィデルマの性格には苦手な部分が多いので(すいません)、もうちょっと情の部分で読者を惹きつけて欲しいなぁなどと思ってしまいました(だから何様か)。
探偵役に入れ込まなくてもミステリを楽しむことは可能だとは思いますけれど、やっぱりこう探偵役の名推理に入れ込んで快哉を叫びたいではないですか。

今回の見所はスケリッグ・ヴィハルの荒涼とした眺めとクライマックスの法廷劇でしょうか。
峻厳なスケリッグ・ヴィハルを描いた場面は特に印象に残っています。
法廷劇の部分は最大の見せ場なのでハラハラさせられながらも喰い付いて読んでいました。弁舌巧みな者同士が競い合う場面はやはりミステリの華ですね!

次回の翻訳予定は4作目になっていますが(※『蜘蛛の巣』は5作目)、1作目と2作目は翻訳して下さらないのかしら。舞台がノーサンブリアとローマだから駄目なのかな。1作目から読みたい人も多いと思うんですが~。


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