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2007.11.07

黄金の王 白銀の王 (沢村凛)

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『黄金の王 白銀の王』
沢村凛 著 幻冬舎 刊

 穡(しょく)大王によって統一された翠の国は、かの王の五十年にわたる治世により繁栄を極めた。 続く三代の王も穡大王の残した教えを守り、国を守った。 しかし、四代目の王の双子の息子、穐(しゅう)王子と廈(か)王子の間で王位継承の争いが起こって以来、穐派の鳳穐(ほうしゅう)一族と廈派の旺廈(おうか)一族の間では争いが絶えず、百数十年に渡って王位をめぐる殺し合いがなされていた。 そして八年前に起こった荻之原の戦では鳳穐が旺廈を討ち取り、玉座は鳳穐のものとなった。 病死した父の後を継いで翠の国の主となった穭(ひづち)は、先の戦で生き残った旺廈の若き頭領薫衣(くのえ)を王城へ召し出し、互いの祖先たちが眠る地下墓所で驚くべき言葉をかける。 「このままでは翠は滅びる。父祖のことばに逆らってでも、鳳穐と旺廈との争いを、終わりにしなければならないのだ」 果ての無い内乱に終止符を打ち外敵へ対抗する為に、ふたりの頭領が下した決断とは……。



沢村凛さんのひさびさの架空歴史もの。
『瞳の中の大河』に強く惹かれたこともあって、今回はどういった作品なのかと期待して手に取りました。
片山若子さんのカヴァー画が愛くるしいので、若者が主人公で希望に溢れた軽やかな感じの作品かと思っていたら、主人公が若者ってところしか合ってなかったですよ……(汗)。
内容はとても重いです。
同じ血を引きながらも対立し合い殺し合う立場にある一族の頭領同士が国を守る為に困難な役割を担いつつ、同じ道を歩いて行く話なんですが、片方が圧倒的優位に立っているのかと思えばそうでもなく、対照的でありながらも補完的で緊張感があるのがふたりの関係に深みを与えていて良かったです。
ただ、王としての立場が一応安定はしているように見える穭(ひづち)よりも殆ど四面楚歌な状況に置かれている薫衣(くのえ)の方が読んでいて痛々しさを感じずにはいられなかったです。
穭の歩く道が綱渡りだとすると、薫衣が辿らざるを得ないのは細く険しくしかも踏み外してしまったらそこで終わりになってしまう先が見えない暗闇の中の道と云った印象でした。
「何が大事で何が小事か」の言葉に従って、頭領としての役割を全うしようとする薫衣の姿を見ているのは高潔さとは無縁の自分にはもういたたまれなくて仕方がありませんでした。政略結婚で娶った穭(ひづち)の妹、稲積(にお)との関係には心温まる部分があるものの、薫衣をもうちょっと楽にさせてやってくれ……と読みながら何度思ったことか。
勿論、穭(ひづち)の立場も非常に不安定なもので、治世においては相当のバランス感覚を求められ、しかも王としての立場を守る為には自らの手を汚すこともやむを得ず、深い苦悩を背負うことになります。それでも前に進まなくてはならない訳ですから、どちらがより苦しいのかと決め付けることは無意味なことで、おそらくどちらの立場もそれぞれ難しいものなのでしょう。
しかし、互いの姿から困難へ向かっていくことと清濁合わせ飲む潔さを呼応するようにして学び、人々の上に立つ者としての孤独を分かち合うことができたこのふたりは、ある種の得難い信頼関係を手に入れることが出来て、もしかしたらとても幸せだったのではないかとも思えます。
タイトルの「黄金」と「白銀」は対立しあう鳳穐と旺廈の象徴で(鳳穐が戴くのは黄金の穂を輝かせたススキの紋章、旺廈が戴くのは尾羽を立てた白い雷鳥です)、ひいてはそれぞれの一族の頭領、穭(ひづち)と薫衣(くのえ)のことでもあるのでしょう。
読了後に、これらふたつの紋も最終的には黄金の穂と白い雷鳥があしらわれたひとつの紋になったのだろうかと考えてしまいました。

好みの作品ではあるのですが、一部の表現にちょっと引っかかるところがありました。
地名にも人名にも漢字表記が多いので古代日本をベースにした東洋風な架空の国を思い描きつつ読んでいるところで、地の文にさらっとカタカナ語(ベンチとかシンメトリーとかコミュニケーションとか)が出てくるのは馴染めなかったです(『瞳の中の大河』でも結構カタカナが出てきていたような記憶がありますが、あの作品は人名がカタカナだったんであまり気にならなかったんですよね)。
著者の語りには勢いがあるので物語の流れに身を任せるのは難しくはない筈なんですが、どうもカタカナが出てくると読んでいる自分の勢いがちょっと削がれてしまうのです。変なところに小うるさい読者で申し訳ないんですけど……。
あと、欲を云えば舞台である翠の国のことをもっと知りたかったなと。
歴史の大きな流れの中で個人が何を考えてどう生きたかを普遍的に描く為には、舞台となった土地を細部まで描写する必要はないのかもしれませんけれど、 そういう部分が好きなんで個人的にはちょっと残念でした。
国のことまでいちいち細かく書いていくと一冊には収まりきらなくなっちゃうんでしょうね。でも、どうにも勿体無いな~と思ってしまいます。
子供世代の話ももうちょっと読みたいな~と思いましたが、この話はここで終わるのが相応しいから仕方ないかな。


ともあれ、時代の転換期を生き抜いた人々の姿を描いた良作だと思いますので、架空歴史もののお好きな方にはお薦めしたいです。


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