オドの魔法学校 (パトリシア・A・マキリップ)
『オドの魔法学校』
パトリシア・A・マキリップ 著 原島文世 訳 創元推理文庫 刊
言葉はわからなかったが、願いは感じた。その呼びかけに惹きつけられ、夜に向かって扉が開くように、膨大な闇と化した自分に光とぬくもりが流れこんでくる。語句は何の意味も持たない。耳に届いたのは、言葉の内部や外部にあるもの、それをかたどる力だった。名前でさえも、まわりにある多くの雑音のひとつにすぎない。虫の鳴き声や鳥のさえずりと同程度のものでしかなかった。唯一理解したのは、話し手にとっては意味があるということだ。
そう認識したことが記憶をかきたて、漠然とした力である存在に姿と定義を与えた。その姿に含まれているものを残らず形にしていく。情熱、経験、思い出、色、音、輪郭、手ざわり、そして最後に、すべての言葉を。
(同書 P371~372より引用)
両親を亡くし、弟にも恋人にも去られた孤独な青年ブレンダンのもとにオドと名乗る女巨人が現れる。
植物を扱う彼の才を見込んで、王都ケリオールにある魔法学校の庭師の仕事を頼みたいと云うのだ。
オドの招きを受けて魔法学校での仕事を始めたブレンダンだったが、彼の秘められた力は王国で管理される魔法の規範をはずれるものだった。
一方、王都の歓楽街<黄昏区>で興行を始めた魔術師ティラミンの噂に王と顧問官は懸念を示していた。
彼の一座が行っているのはただの目くらましなのか、それとも本当の魔法なのか。
真実を探るべく、警吏監アーネスは黄昏区へ入り込むが……。
本国ではコンスタントに新作が発表されているのに、日本語ではなかなか新作が読めずにもどかしい思いをしておりました。『影のオンブリア』(→感想)が出てから約三年振りでしたか。
言葉になりにくいようなあえかな空気すら美しい言葉で鮮やかに語り上げていく稀有な作家マキリップの久々の邦訳作品です。
感覚としては綺麗な音楽を聴いている時の気持ちに似ていたかも。いつまでもいつまでもこの物語世界に浸っていたい!と思いながら読んでいました。
迷宮めいた都市と魔法学校の中の迷宮、野の魔法と街の魔法。
孤独な青年、魔法学校の教師、王女、警吏監と魔術師の娘。
視点人物たちのそれぞれが関わりを深めるにつれて、場所の魔法と人々を取り巻く魔法が絡み合い、謎と神秘と不思議が織り成す美しい模様が眼前に現れてくるようでした。
筋立てそのものが割とシンプルなので躍起になって謎を追うのではなく、物語の中に漂っている美しい描写をひとつひとつ味わいながら楽しむことができました。
魔法そのものと土地が持つ力がこの物語の主役だと云われれば一応納得はできるんですが、欲を云うと魔法に翻弄された人々の描き方についてはちょっと物足りないかなと思います。
人々と魔法の真の関わり(新しい関わりと云った方が正確かな?)はこの物語が終わった時点から始まるんですよね。その辺りは皆まで書かずに読者の想像に委ねているのでしょうけれど、欲深い読者としましては後日譚も読んでみたいところ。特にヴァローレンのお堅い部分がどんな風に変化していくのかが非常に気になるんですよねぇ~。これは姫の頑張りに期待ってことで(笑)。
あと、長さに比して視点人物が多いからなのか、物語の焦点が一点に結ばれずに拡散していってしまうような気もしましたが、これは狙って書いているのかもしれませんね。
まぁ、つまらない不満を表明するのも憚られるような作品ですので、まやかしではない本当の「魔法」を文章で味わってみたい方には激しくお薦めです。



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