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2008.04.29

流れ行く者 (上橋菜穂子)

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『流れ行く者―守り人短編集』
上橋菜穂子 著 偕成社 刊


「浮き籾 」
「ラフラ〈賭事師〉」
「流れ行く者」
「寒のふるまい 」

守り人シリーズ短篇集です。四篇収録されていますが、それぞれつながりがあるので連作短篇集と云うべきかも。
流浪の用心棒父娘ジグロとバルサの心の機微を中心に描いた表題作とタンダがメインの話の「浮き籾(もみ)」が比較的長め。
バルサやタンダの少女少年時代の話を中心に、それぞれ事情のある人生を生き抜く人々を厳しさと苦さと優しさを持った視点で描いています。
本篇でもそうでしたが、作品世界の構築がとてもしっかりしているので、生活感のある描写を読むのがとても楽しかったです。著者の地に足のついた表現力で描かれる物語はやっぱり良いなぁ。
「浮き籾」では異界を視る者としてのタンダを描き、「流れ行く者」では戦いを通じて厳しい現実を見据えるバルサを描いていますが、両者を対比させながらどちらへも傾き過ぎないバランス感覚が見事だなと感じました。
勿論、バルサとタンダのふたりの過去を垣間見られたのも純粋に嬉しかったです。
年相応の表情を見せ合った時間がふたりの関係をかけがえのないものにしているんだなと納得。
少女時代のバルサがタンダに対して兄貴風(?)を吹かしているところも微笑ましかったですよ(笑)。
バルサはやっぱり若い頃からずいぶんオトコマエだったんだね。
そんでもってタンダのポジションって少年時代から変わってないんだなぁ。
そしてやっぱりジグロは気弱になった部分も含めてとても素敵でした。
漢の中の漢だよねぇ、ジグロ!(うっとり)

本篇のように大がかりな展開がないので地味と云えば地味なのですが、話の進行に気がせかない分だけ登場人物たちの人生に寄り添えたような気がします。
シリーズの時系列としては一番最初にくるものですが、完結巻まで読み終わってからの方が色々と味わい深いものが多いかと。


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2008.04.12

魔使いの秘密 (ジョセフ・ディレイニー)

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『魔使いの秘密』
ジョゼフ・ディレイニー 著 金原瑞人 田中亜希子 訳 創元ブックランド 刊


魔使いジョン・グレゴリーとその弟子トム、そして魔女の血を引く少女アリスのチペンデンでの奇妙で心地よい同居生活も束の間、ある晩訪ねてきた男の手紙を読んだ魔使いは悪い噂に事欠かないアングルザーク高原へ移ると宣言し、旅の途中でアリスを別の家に預けると云う。
アングルザークで魔使いとトムを待っていたのは、冬の家に封じられているグレゴリーの元恋人ラミア魔女のメグと、修業に失敗したことで魔使いに深い恨みを持つ元弟子のモーガンだった。
冬の魔王の異名を持つ古代の神ゴルゴスを目覚めさせようとしているモーガンの野望を魔使いとトムは止めることができるのか──?


タイトル通りに魔使いの秘密が明かされるシリーズ3冊目。
1・2巻の簡単な感想はこちら
前作でもちらほらと言及されていた師匠の過去が語られます。
これまで仕事に対しても他人に対しても自分に対しても厳しい態度を崩さなかったジョン・グレゴリーの意外な一面が窺えました。四角四面にストイックな人なのかと思っていましたが、彼にも執着や未練のように人間としての弱い部分があり、それを断ち切れないことで苦悩する部分があって何とも切なかったです。
不謹慎ではありますけれど、そんな彼の姿にはちょっと色気を感じたので若き日のグレゴリー師の物語も読んでみたくなりました。過去に何があったかと云うのは本作できちんとわかるんですけども、視点がトムなので何かこういまひとつ喰い足りなくて。児童書ですから仕方ないと云えばそうなんですけどね。
でも激情に翻弄される若き日の師匠の姿は見てみたいなぁ。特にメグとの出会いとかエミリー・バーンズとのエピソードなどは師匠視点で読みたいです。
作中で言及される師匠への疑惑に関しては否定する気持ちが7割で肯定してしてしまいそうになる気持ちが3割程といったところでした。全否定できないような気にさせるところが何ともなぁ……(笑)。
しかし、師匠ってば前回では重い病気になって今回は大怪我とは大変ですね。あまり無理の利かない体なんですからどうぞお体大事にして下さいと云いたいです……。


トムの方はと云えば、とうとう避けられないつらい別れを経験することなります。
そして、精神的なよりどころとも云える母親の助けをこれまでのようには期待できないことになった上に、トムを取り巻く状況はこれまで以上に苛酷で困難なものになりそうです。
善悪の狭間を行ったり来たりしているアリスの立ち居地は未だにはっきりしないのですが、トムとの関係は師匠とメグのようになってしまうのか、それともまた違った新しい形の関係として成り立つのかが楽しみでもあり怖くもあるところですね。登場人物それぞれの行く末がとても気になります。
続きも是非読みたいです。





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2008.04.08

みどりいろの童話集 (アンドルー・ラング 編)

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『みどりいろの童話集  アンドルー・ラング世界童話集 第3巻』
アンドルー・ラング 編 西村醇子 監修 東京創元社 創元ブックランド 刊


英国の民俗学者であり編集者でもあったアンドルー・ラングが世界各国の民話を集めて全12巻の童話集としたものの新訳・新編集版です。
タイトルに合わせた装幀がとても美しく印象的な本です。書棚に全巻並べておいたらさぞかし楽しいでしょうね。
ヴィクトリア朝あたりの挿絵画家の細かい線画が大好きなので、H・J・フォードの挿画を眺めているのも嬉しかったです。

内容に関しては、フランス系統(おおもとは違うものもあるのでしょうが、物語としての体裁を最終的に整えたのがフランスの文人っぽい印象)の作品が多いせいか、民話の破天荒さとか突拍子の無さはかなり抑え目で、寓話性が感じられる洗練された物語が多めでした。
民話集としてはかなりおとなしいつくりなのではないでしょうか。
ちょっと残念だったのは出展に関しての説明が入っていなかったこと。
グリムは今更解説する必要もないくらい有名ですが、フランス系統については知らない人物ばかりだったので、簡単な解説があれば便利だったのにと思ってしまいました。

収録作品は以下の通り。


「青い鳥 」
「ロザネラ姫 」
「シルヴァンとジョコーサ」
「妖精のおくりもの」
「三匹の子豚」
「氷の心 」
「魔法の指輪」
「金色のクロウタドリ」
「小さな兵士」
「魔法の白鳥」
「きたない羊飼い」
「魔法をかけられたヘビ」
「身から出たさび 」
「コジャタ王 」
「気まぐれ王子と美しいヘレナ」
「ホック・リーと小人たち」
「三匹のクマの話」
「ヴィヴィアン王子とプラシダ姫 」
「つむと杼とぬい針 」
「オオカミとキツネの戦い」
「三匹の犬 」


「三匹の子豚」や「三匹のクマの話」は大筋では馴染み深いものの、細かい部分に異同がありました。
こちらのヴァージョンで子豚きょうだいが住む家は、わらの家と木の家とれんがの家ではなくて、泥の家とキャベツの家とれんがの家ですし、訪ねてくるのが狼でなくて狐だったり、三匹の熊の家にやってくるのは女の子ではなくて老婆(しかもけっこう性悪・笑)だったりと、細部の違いの面白さが楽しめました。
中国版「こぶとりじいさん」の「ホック・リーと小人たち」は、日本版よりもオチが功利的(?)な印象。
転んでもタダでは起きないと云うかちゃっかりしてるなぁ!と感心しましたよ(笑)。


冒頭から人面蛇身の王女リュドヴィーヌが出てくる「小さな兵士」は、メリュジーヌ伝説と関連があるのかな?と思いながら読み進めていました。
リュドヴィーヌが蛇身から人の姿に戻る際に、上着、スカート、靴と靴下を身につけることによって上半身から段階的に人間の女になる描写が面白かったです。
もともとは人間の王女なんですが、どこか禍禍しい美貌と富とをあわせ持っているところがC・S・ルイスの『銀のいす』に出てくる緑の貴婦人を連想させるので、リュドヴィーヌも半ばはメリュジーヌやオンデイーヌにつながる水の姉妹で異界の女の一員なのではなかろうかと思います。

読んでいて一番おかしかったのは一番最初に収録されている「青い鳥」。
本筋は悪い魔法使いに青い鳥の姿にされてしまった王様と美しい王女の話なんですが、この話に出てくる王様の親友の魔法使いの発言(P 39)が王女全般に対する偏見に満ちているので、過去に彼は王女数人に何か酷い目に遭わされたのだろうかと本筋を外れた部分を勘繰ってしまいました(笑)。
勿論、物語としてはお伽話のセオリーに則ったちゃんとしたハッピーエンドですよー。


物語そのものよりも、様々な物語の中にあるそれぞれのモティーフを楽しみました。
次回刊行の『きいろの童話集』も是非読んでみたいです。





みどりいろの童話集(アンドルー・ラング世界童話集 第3巻)

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