王と最後の魔術師 (エレン・カシュナー&デリア・シャーマン)
『王と最後の魔術師』上・下
エレン・カシュナー&デリア・シャーマン 著 井辻朱美 訳 ハヤカワFT文庫 刊
古代史を研究する若き碩学バージル・セント・クラウドと印象的な美貌を持つ公爵家の跡継ぎセロン・キャンピオン。
強く惹かれあうふたりは熱烈な恋に落ち、心と体を結び合うのだが、王政復古を掲げる学生たちや、それを危険視する貴族たちの目論見により、彼らの関係は次第に齟齬をきたし変化を迎える。
そして、冬至の前夜祭での狂乱を経た都では王と魔術師をめぐる滅びた筈の古代の魔術が息を吹き返そうとしていた──。
『剣の輪舞』 の続篇と云っていいのかな。前作の六十年後を舞台とした物語です。
話自体は直接繋がっている訳ではないので本作から読み始めても差し支えないかと思いますが、前作の主要な登場人物が姿を垣間見せてくれたり名前がちらりと出てきたり(おじいさまの方のゴッドウィン卿が渋くなってて素敵でした~!)と前作を知っている読者に嬉しい楽しみを提供してくれているので、作品世界にすんなりと入りたい方には『剣の輪舞』から読むことをお薦め致します。
メインの主役セロンとバージルの関係は前作のリチャードとアレクのそれよりも複雑です。
恋に落ちたふたりが熱い想いを抱いて肌を重ねてはいても、心理的に触れられない部分があることから彼らの関係には甘さはあってもどこか張り詰めた雰囲気があります。そこに「王」と「魔術師」の関係が絡んできて、支配する者と支配される者の均衡がますます微妙なものとなり、深く愛し合ってはいても互いにすべてを明け渡していないふたりの駆け引きの緊張感とあいまって、そのゆらぎがまた官能を高めていきます。このあたりの関係性の描き方が絶妙なので、同性同士の恋愛物に思い入れがない自分も彼らの想いの危うさを堪能することができました。ラヴシーン自体も品があるのでそちら方面のジャンルが苦手な方でも大丈夫なのではないかなぁ(駄目だったらすいません)。
色々な神話や伝説の要素が散りばめられている物語ではありますが、魔術師に選ばれる王のモティーフが中心になっているところを見ると、基本的にはセロンとバージルの関係はアーサー王伝説におけるアーサー王とマーリンの関係に恋愛要素を絡めたものなのでしょうね。伝説の再話としてはかなり刺激的で面白いものだと感じました。
幻影であり啓示であり真実を映し出すものとしてのヴィジョンの使い方も非常に巧みで、そのヴィジョンの数々が現実と溶け合っていく前夜祭と公開論戦の場面は白眉でした。ファンタジーの醍醐味を味わえる描写に耽溺しましたよ。
この物語の神話的なイメージはセロンとバージルや大学の関係者及び貴族たちなどの男性が中心となっていて、個性的な女性が多いのにその点ではちょっと物足りないかも?などと思っておりましたら、セロンの異母姉ジェシカが登場してからは女性たちの存在の意味合いが変わってきました。
トレンモンテーヌ家の三人の女性たち、キャザリン、ソフィア、ジェシカは三位一体の女神とイメージが重ねられているように思えます。
さらにセロンとの関わりを考えると、アーサー王伝説におけるアヴァロンの三人の王妃たちにも通じるところがあると感じましたし、ジェシカに関しては戦女神モリガンとモルガン・ル・フェの属性も備えているのではないかな(もともとこの二者はイメージ的に強固な結びつきがありますが。癒し手としてのソフィアにもモルガンの属性が与えられているようですね)。
イソードがアルテミスになぞらえられているとすると、ジェシカとのやりとりは女神同士の交歓と云えなくもないので、物語の冒頭でセロンがイソードに捨てられるのもむべなるかなと(笑)。いくら「王」であっても女神の相手は荷が重いよね……などと考えてしまいました。
あと、ソフィアの故郷のカイロスにはキプロス島とアヴァロンのイメージが漂っているような気がします。
などと神話的なイメージがふんだんに盛り込まれているので、文章に込められたイメジャリーの数々を堪能するのも楽しみのひとつかと。物語のそこかしこに織り込まれた象徴を読み解くファンタジーとして上質の作品だと思います。
勿論、大学を舞台とした学者たちの競争や北部と南部の軋轢に絡む貴族たちの陰謀、街を作り上げた重厚な歴史など、架空の国を舞台とした小説としても満足感の高い作品です。
読み返すたびに色々な発見がありそうなので、続刊が出たら最初からまた再読するのも楽しそう。
来月には本作でも強い存在感を示したトレモンテーヌ女公爵キャザリンの若き日を描いた『剣の名誉』が刊行されるそうです。アレクの姪ってことは「死神という名前ではなかった剣客」で語られた妹が彼女の母親なのかな。
狂公爵(つまりはアレクのことなので、彼がどのように歳を重ねたのかにも興味津々です)とのやりとりやマーカスが彼女にとってかけがえのない存在になる過程なども語られるのでしょうね。マーカスの生い立ちも気になります。
今から読むのが楽しみ!








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