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2008.07.16

王と最後の魔術師 (エレン・カシュナー&デリア・シャーマン)

王と最後の魔術師 上 画像クリックでamazonへ 王と最後の魔術師 下 画像クリックでamazonへ

『王と最後の魔術師』上
エレン・カシュナー&デリア・シャーマン 著 井辻朱美 訳 ハヤカワFT文庫 刊


古代史を研究する若き碩学バージル・セント・クラウドと印象的な美貌を持つ公爵家の跡継ぎセロン・キャンピオン。
強く惹かれあうふたりは熱烈な恋に落ち、心と体を結び合うのだが、王政復古を掲げる学生たちや、それを危険視する貴族たちの目論見により、彼らの関係は次第に齟齬をきたし変化を迎える。
そして、冬至の前夜祭での狂乱を経た都では王と魔術師をめぐる滅びた筈の古代の魔術が息を吹き返そうとしていた──。


『剣の輪舞』
の続篇と云っていいのかな。前作の六十年後を舞台とした物語です。
話自体は直接繋がっている訳ではないので本作から読み始めても差し支えないかと思いますが、前作の主要な登場人物が姿を垣間見せてくれたり名前がちらりと出てきたり(おじいさまの方のゴッドウィン卿が渋くなってて素敵でした~!)と前作を知っている読者に嬉しい楽しみを提供してくれているので、作品世界にすんなりと入りたい方には『剣の輪舞』から読むことをお薦め致します。

メインの主役セロンとバージルの関係は前作のリチャードとアレクのそれよりも複雑です。
恋に落ちたふたりが熱い想いを抱いて肌を重ねてはいても、心理的に触れられない部分があることから彼らの関係には甘さはあってもどこか張り詰めた雰囲気があります。そこに「王」と「魔術師」の関係が絡んできて、支配する者と支配される者の均衡がますます微妙なものとなり、深く愛し合ってはいても互いにすべてを明け渡していないふたりの駆け引きの緊張感とあいまって、そのゆらぎがまた官能を高めていきます。このあたりの関係性の描き方が絶妙なので、同性同士の恋愛物に思い入れがない自分も彼らの想いの危うさを堪能することができました。ラヴシーン自体も品があるのでそちら方面のジャンルが苦手な方でも大丈夫なのではないかなぁ(駄目だったらすいません)。
色々な神話や伝説の要素が散りばめられている物語ではありますが、魔術師に選ばれる王のモティーフが中心になっているところを見ると、基本的にはセロンとバージルの関係はアーサー王伝説におけるアーサー王とマーリンの関係に恋愛要素を絡めたものなのでしょうね。伝説の再話としてはかなり刺激的で面白いものだと感じました。
幻影であり啓示であり真実を映し出すものとしてのヴィジョンの使い方も非常に巧みで、そのヴィジョンの数々が現実と溶け合っていく前夜祭と公開論戦の場面は白眉でした。ファンタジーの醍醐味を味わえる描写に耽溺しましたよ。

この物語の神話的なイメージはセロンとバージルや大学の関係者及び貴族たちなどの男性が中心となっていて、個性的な女性が多いのにその点ではちょっと物足りないかも?などと思っておりましたら、セロンの異母姉ジェシカが登場してからは女性たちの存在の意味合いが変わってきました。
トレンモンテーヌ家の三人の女性たち、キャザリン、ソフィア、ジェシカは三位一体の女神とイメージが重ねられているように思えます。
さらにセロンとの関わりを考えると、アーサー王伝説におけるアヴァロンの三人の王妃たちにも通じるところがあると感じましたし、ジェシカに関しては戦女神モリガンとモルガン・ル・フェの属性も備えているのではないかな(もともとこの二者はイメージ的に強固な結びつきがありますが。癒し手としてのソフィアにもモルガンの属性が与えられているようですね)。
イソードがアルテミスになぞらえられているとすると、ジェシカとのやりとりは女神同士の交歓と云えなくもないので、物語の冒頭でセロンがイソードに捨てられるのもむべなるかなと(笑)。いくら「王」であっても女神の相手は荷が重いよね……などと考えてしまいました。
あと、ソフィアの故郷のカイロスにはキプロス島とアヴァロンのイメージが漂っているような気がします。
などと神話的なイメージがふんだんに盛り込まれているので、文章に込められたイメジャリーの数々を堪能するのも楽しみのひとつかと。物語のそこかしこに織り込まれた象徴を読み解くファンタジーとして上質の作品だと思います。
勿論、大学を舞台とした学者たちの競争や北部と南部の軋轢に絡む貴族たちの陰謀、街を作り上げた重厚な歴史など、架空の国を舞台とした小説としても満足感の高い作品です。
読み返すたびに色々な発見がありそうなので、続刊が出たら最初からまた再読するのも楽しそう。


来月には本作でも強い存在感を示したトレモンテーヌ女公爵キャザリンの若き日を描いた『剣の名誉』が刊行されるそうです。アレクの姪ってことは「死神という名前ではなかった剣客」で語られた妹が彼女の母親なのかな。
狂公爵(つまりはアレクのことなので、彼がどのように歳を重ねたのかにも興味津々です)とのやりとりやマーカスが彼女にとってかけがえのない存在になる過程なども語られるのでしょうね。マーカスの生い立ちも気になります。
今から読むのが楽しみ!

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2008.07.15

デ・ラ・メア幻想短篇集 (ウォルター・デ・ラ・メア)

デ・ラ・メア幻想短篇集

『デ・ラ・メア幻想短篇集』
ウォルター・デ・ラ・メア 著 柿崎亮 訳 国書刊行会 刊


英国の詩人であり文学者であったウォルター・デ・ラ・メアの短篇集。
タイトル通り幻想風味の強い作品が収録されています。


収録作品は以下の通り。


「謎」
「悪しき道連れ 」
「五点形 」
「三人の友」
「ミス・ミラー」
「深淵より 」
「絵 」
「ケンプ氏 」
「どんな夢が 」
「家」
「一瞥の恋 」


冒頭に収録されている「謎」のインパクトが個人的に強過ぎて、他の作品が少々霞んでしまった感がありました。
祖母の家に引き取られることになった7人の兄弟姉妹が次々と姿を消していく話で、短いながらも著者の真髄がこの短篇に集約されていると云っても過言ではないかと思います。全篇に漂う死のイメジャリーが忘れがたい印象を残してくれました。

その他印象に残ったのは、
地下鉄で出会った不気味な老人を尾行した語り手が廃屋で見つけたものは……という話の「悪しき道連れ」は謎めいた怪奇譚としての趣が味わえました。サスペンス部分の盛り上げ方も絶妙。
伯母の財産を狙う甥と死してなおその秘密を守ろうとする伯母との奇妙な攻防を見守ることになった語り手の体験が綴られる「五点形」は幽霊屋敷ものと云っていいのかな。錯乱した甥の奇行とも解釈できるあたりが興味深いです。
死後の世界を語り合う三人の人物を描く「三人の友」は観念的な話ですが、飄々とした雰囲気の面白味がありました。
「ミス・ミラー」は風変わりな言葉を少女に投げかける女性の話。言葉遊び的な側面が強いので原語の方が面白いのだろうなと思います。
「深淵より」も幽霊屋敷もの。邸内の描写が夢幻的でした。一番好きな雰囲気の作品。

巻末の「一瞥の恋」は長めで読み応えもありましたが、主人公のセシルのことがあんまり好きになれなかったのでちょっと苦手……。

幻想と怪異が端正に織り込まれた短篇集ですので、英国怪談ものやそういった方面の作品がお好きな方は是非。

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2008.07.11

囚われちゃったお姫さま (パトリシア・C・リーデ)

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『囚われちゃったお姫さま─魔法の森 1』
パトリシア・C・リーデ 著 田中亜希子 訳 創元ブックランド 刊


リンダーウォール王国の末の姫シモリーンは、上の6人の姉姫たちとはまったく違ってお姫さまらしくするのが退屈でたまりません。自分から進んで学んだことと云えば、剣術、魔法、ラテン語、料理、経済学と、お姫さまには相応しくないと云われることばかり。
名付け親の妖精に苦情を申し立ててはみたものの、その結果はハンサムなだけの隣国の王子セランディルとの結婚話。
「ドラゴンに食べられるほうがまし」とまで思いつめていたシモリーンは、城の庭で出会ったカエルからのアドバイスに従って城を抜け出し、困難から抜け出す手助けをしてくれる者の元へ向かうのですが……。


自分の頭で考えて行動できる、ちゃきちゃきと元気なお姫様が大活躍する何とも愉快なお伽話ファンタジーでした。
普通のお姫様と違って勉強家で独立独歩、気に入らない縁談を断る為にはドラゴンの巣穴に飛び込むことも厭わない勇敢さも備えたシモリーンが、魔法使いの陰謀やドラゴンの「キング」の後継者争いに巻き込まれるのですが、ユニークな仲間たちと共に危機を乗り切っていきます。
主人公のシモリーンは当然としても、この作品中では女の子や女性の方が意志的ですね。
シモリーンを囚われの姫にする理知的なドラゴンのカズールや魔女のモーウェン、気弱そうに見えても実はなかなかのしっかり者な姫君のアリアノーラとの女同士のやりとりは非常に楽しかったです。
それから、この作品で描かれるカズールの巣穴はなかなか魅力的だったので、一ヶ月くらい滞在したくなってしまいました(笑)。ドラゴンの巣穴なんて人間の住むところじゃないと思っていましたが、シモリーンの家事能力の高さのせいもあって、かなり居心地が良さそうなんですよね。図書室や宝物部屋の探検もしてみたい!

全篇に散りばめられた童話や伝説などのエピソードの使い方も楽しいですね~。
求婚のお作法として、王子は姫君を巨人とか人食い鬼(オグル)とか恐ろしい妖精の呪いなどから解放しないといけなかったり、ドラゴンにさらわれるのがお姫様のステイタスだったり。
石の王子が通っていた英雄養成学校の同級生のジョージとアーサーとジャックのエピソードが語られるあたりでは思わず吹き出しそうになりました。確かに彼らが同級生で自分がまだ何も成し遂げてなかったらかなりのプレッシャーを感じるよねぇ……。


それから忘れてならないのが橋賢亀さんのイラストの魅力。
この作品の雰囲気にぴったりでした。カラーも素敵なんですが、中のモノクロの挿絵が素晴らしいです。


賑やかでテンポ良い話運びと読み易い翻訳のお蔭で楽しく読み進めました。
女の子が頑張るお話が好きな人にはお薦め。
4部作の1冊目ということなので、続刊での新しい境遇でシモリーンがどんな風な活躍を見せてくれるのか今から楽しみです。





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2008.07.04

スカイシティの秘密 (ジェイ・エイモリー)

スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険

『スカイシティの秘密―翼のない少年アズの冒険』
ジェイ・エイモリー 著 金原瑞人・圷 香織 訳  創元推理文庫 刊

地上での大災害の後、生存者は巨大な柱の上に都市(スカイシティ)を建設し、住人たちは天使のような翼を持った姿で空を飛べるように進化した。
しかし、彼ら天空人(エアボーン)たちの生活は未だ地上からの物資に頼るものだった。その供給システムが妨害されていることを知った行政都市シルバーサンクタムの指導者セリーナは、生まれつき翼の無い少年アズリエルを地上への調査へ向かわせる。
未知の世界である地上に降り立ったアズは、果たして使命を果たすことができるのか──。


のっけから厳しいことを云わせて戴くのならば、SFとしてもファンタジーとしても中途半端な印象を受けました。
天空人(エアボーン)のヴィジュアル的な造形は素敵だなと思うんですが、地上人(グラウンドリング)からの進化でどのようにして決定的な差異が起こったのかなどは語られていないんですよね。
アズの体重が地上人と比べて軽いと云う言及があることから、人でありながら骨格などは鳥に近いんだろうと思いますが、そのあたりに関しての説明がなかったのが残念。
本筋に影響がないので割愛されているのかもしれませんけれど、エアボーンという種族を魅力的に見せる為には進化の過程についての説明がいくらかあったほうが彼らの歴史に厚みが出たのはないかなぁ。
SFではなくてファンタジーとしてならどうかと云うと、深みが足りないような気がしました。
主人公のアズはエアボーンの中でただひとり翼を持たずに生まれてきた少年です。
しかし、外見で他者との決定的な違いがあるにも関わらず、どうしようもない欠落感のようなものを味わっていない気がします。
難しいところのある少年だとされている割に根本的なところでは楽天的と云いますか、魂を食むような深い孤独を味わっていてもおかしくないのに、けっこう明るいんですよね。
別に鬱々とした内面描写を長々と読みたい訳ではないのですが、翼に関してはどうも設定が先行しているような印象を抱いてしまって、翼を持つ必然性が感じられませんでした。神話的なイメージのひとつでも織り込まれていればまた違ったのでしょうが……(エアボーンたちにはそれぞれの名前が物語っているように天使のイメージが散りばめられていはいますけれど、これまた設定の為のネーミングっぽくて)。
助祭たちやヒューマニストたちの悪役ぶりも割合平面的と云うかわかりやすいので、こちらにももう少しインパクトが欲しかったところです。


アズが地上に落とされて地上人グラウンドリングの少女キャシーと出会うあたりからは冒険活劇風で面白くなってきます。
ここで魅力的なのは何とと云ってもキャタピラで走る乗り物、マークコーマーのバーサ号でしょう。「彼女」の八面六臂な活躍には本当にわくわくさせてもらいました。このあたりは短めの章立てで映像的にテンポ良く進んでいく物語の流れに身を委ねているのが楽しかったです。
この物語のもうひとりの主人公と云えるキャシーの漢気(?)も恰好良かったと思います。アズよりもよっぽどオトコマエなので、いっそ彼女が主人公だったほうが燃えたかもしれません(笑)。

少年少女の冒険ものとしてはまあ面白かったと思いますが、舞台となる世界については物足りない部分が多かったので、次巻以降で色々と明かされていけば良いなぁ。



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