水のしろたえ (末吉暁子)
『水のしろたえ』
末吉暁子 著 理論社 刊
都から駿河へ赴任してきた国守(くにのかみ)菅原伊加富(すがわら いかとみ)は、大瀬(おせ)の岬でこの世のものとは思われぬ美しい娘と出会う。玉藻という名の娘に強く惹かれた伊加富は彼女を妻とし、都へと連れ帰る。
やがて玉藻は伊加富の子どもを身ごもるが、出産の際に命を落としてしまう。
母の記憶はないものの、側仕えの女房小松や父の愛情に包まれて育った真玉(またま)は幸福に暮らしていたのだが、征夷大将軍坂上田村麻呂の副使として陸奥の国へエミシ討伐に旅立った父が朝廷を裏切り敵前逃亡したとされ、住み慣れた邸にも火をかけられる。
小松とふたりで逃げ出した真玉は石山寺に身を隠して父の帰りを待つことにするのだが……。
羽衣伝説をモティーフにした歴史ファンタジーかと思っていたのですが、思っていたよりもファンタジー色は強くなく、人間の父と異界の住人の母の間に生まれた主人公の少女が自分の生きる道を自分で決める物語という印象でした。
異種婚姻譚が中心にある割には真玉と異界を直接繋ぐのは水底の国の番人であるギョイだけなので(間接的に繋いでいるのは母の残した「水のしろたえ」でしょうか)、幻想味はけっこう少な目に感じました。<水底の国>の詳細や<上つ国>との対比はもっと本文でじっくり読みたかったです。ファンタジー的には一番重要なところだと思うんですけど!
平安朝ものとしてば、坂上田村麻呂やアテルイに藤原薬子や高丘親王と、なかなか豪華な人物たちが登場しています。
ただ、様々なエピソードを盛り込むにしてはやはり物語が短すぎたような気がします。
蝦夷関連の出来事にしても宮中での出来事にしても、手際良くまとまっているなぁと感じながらもやっぱり喰い足りないんですね。歴史群像劇ではなくて真玉という少女を主人公に据えている以上は当然なのでしょうけれど、もうちょっと長い話として読みたかったです。
幼くても聡明な高丘親王の描き方も良かったですし、自分に正直な薬子の姿も鮮やかな印象を残していたので、宮中の話はもっと突っ込んで欲しかったな。
児童文学としてはあまりドロドロしたものを織り込み過ぎるのもよろしくないのでしょうが。
歴史もの寄りの少女の成長小説としては面白かったです。
丹地陽子さんのイラストも素敵でした。



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